第五十九話 再会の予兆
「ターシェも変わったな。しっかし、懐かしいな…。でも一体どうしたんだ?俺んとこになんか来て?」
他にも言うことあるか…。いいよな?別に…。
『うん。…実は私ね、歌手になったの。外国でだから知らないよね?でもね、今日こっちでライブすることになったの。いろいろあって直前になっちゃったんだけど、来てもえないかな?』
音楽に関わる職業。それがターシェの夢だった。 夢を叶えたんだなぁ。
「今日か…。悪いな、仕事がたてこんでて、行けそうにねぇな。」
『その事でご相談しなければならない事があるんです。』
黒人の側近が話に入ってきた。どうしたんだ?
『先日このような文章が送られて来たのです。』
腕にはめた腕時計型のモニターに触れると、立体映像が飛び出してきた。
映し出されたのは、機械で書かれた文章だった。
“コンサートを中止せよ。さもなくば、命は保証しない。―ケルベロス”
「ケルベロス!?」
試合が始まる前にいきなり右ストレートもらった気分だった。ターシェが…狙われてるのか?
『理由はわかりませんが、この通り、ターシェ様を狙う者がいるのです。私どもは他国の者。この者がどのような者なのかわかりません。』
モニターを閉じて更に話を進めた。
『そこで奴について調査しているあなたに情報を頂こうと伺った訳です。』
「よーするに情報をよこせと…。」
つっかかるような言い方だっただろうな。この世界、なめられたらおしまいだ。
向こうは俺が睨んでても、顔色一つ変えず返してきた。
『はい…。正直そのつもりでした。ですが、あなたの事を調べて考えが変わりました。この国でトップの実力をもち、数々の成果を上げた方、その上彼女のご友人であるあなたならば、我々の申し出を受けて頂けると思いまた。』
「申し出?」
今度はターシェが割り込んできた。
『ハック達と一緒に私を守ってほしいの。』
途中からだいたい言いたいことはわかった。だが、ケルベロスの今までの事件の中に犯行予告を送りつけたもんなんてない。なんかのイタズラかもしれねぇ。
俺の考えてることがわかったのか、ハックと呼ばれた男が付け足してきた。
『確かにイタズラの可能もあります。ですが、そうでない可能もまた、あります。あなたの今の任務は一時、私の部下に引き継がせてください。ですから、我々に力を貸して下さい。』
可能性は低いだろうが、行くしかないだろう。
ターシェを手にかけさせるなんて絶対にさせない。
「わかった。俺にも手伝わせてくれ。」