第五十六話 久しぶりに
「そ、その声…ターシェか?」
『覚えていてくれた?ジェイク。』
わかりやすいくらいに驚いた。しゃーねーよな。ガキの頃以来なんだから。何年ぶりだ?二桁はいってるよな。
『声かっこよくなったね。きっと見た目もかっこいいんだろうね。』
そうだ。ターシェは目が見えないんだ。生まれつき全く光が見えないんだ。
にしても、ずいぶん変わったな。もちろん、いい意味でだ。美人だぞ。髪は紺で床につきそうなくらい長い。顔も色白で瞳はエメラルド、小顔で少し幼い感じを受ける。童顔。背は高い方だな。俺とデコ一つ分くらいしか変わらない。
面影はある。あっても…やっぱりちがう。
なつかしいな。小学校三年ぐらいか?最初に会ったのは雨の日だった。実家は道場だからドームみたいに広いとこの方が適してたんだ。学校からの帰り道、突然雨が降ってきた。ドームでは予めいつ降るって予報してんだけど、すっかり忘れちまってて…。
その時近くにあった店に寄ったんだ。シャッターは閉まってたんだけど屋根があったから雨宿りにはなった。
「冷てぇ。結構ぬれちまったよ。」
体育の時用に持ってたタオルを使って濡れたとこを簡単にふいた。そのままタオルをかぶって帰ろうとした時だった。向かいの店の前にも俺みたいに雨宿りしてる奴がいた。俺と同じくらいの背。でも、向こうは俺のことに気付いてなかったみたいだった。白いスティックを持っているのに気付いてわかった。目が見えないんだ。
目の見えない人なんて会ったことがなかった。だから、すごく気になった。
俺は屋根の下から出た。家に帰るんじゃない。隣に行くために向かいの店の下に行ったんだ。
その子は音に気付いて少しこっちを向いた。だけど、それだけ。また雨の降る店の外の方を向いた。
「あんたも雨宿りしてるの?」
俺の方から声をかけた。そりゃそうか。気になったのは俺の方だし。
その子は少しだけこっちを向き、小さな声でこう言った。
『私?…ううん。コンサートを聞いてるの。』
何言ってんだ?最初聞いた時は目が点になった。
『目を閉じて。それがチケットだから。』
よく分かんねぇけど、とりあえず言われた通りにしてみた。目を閉じたらコンサート?何だよ…。
真っ暗になった世界に雨の音だけが響く。それだけじゃない。所々に雨が水溜まりに落ちる音、屋根に当たって弾ける音、葉っぱに当たって弾ける音。少しずつ違う音がまるで曲のように流れていく。まさにコンサートだった。
「スゲェ…。」
こんな風に聞いたことなかったからな。感動したに近い感覚を覚えた。
ターシャとの出会いで俺は色んなことを学んだ。
一つ目がこの
“雨の日の楽しみ方”
だな。