表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/173

第五十六話 久しぶりに

「そ、その声…ターシェか?」


『覚えていてくれた?ジェイク。』


わかりやすいくらいに驚いた。しゃーねーよな。ガキの頃以来なんだから。何年ぶりだ?二桁はいってるよな。


『声かっこよくなったね。きっと見た目もかっこいいんだろうね。』


そうだ。ターシェは目が見えないんだ。生まれつき全く光が見えないんだ。


にしても、ずいぶん変わったな。もちろん、いい意味でだ。美人だぞ。髪は紺で床につきそうなくらい長い。顔も色白で瞳はエメラルド、小顔で少し幼い感じを受ける。童顔。背は高い方だな。俺とデコ一つ分くらいしか変わらない。


面影はある。あっても…やっぱりちがう。


なつかしいな。小学校三年ぐらいか?最初に会ったのは雨の日だった。実家は道場だからドームみたいに広いとこの方が適してたんだ。学校からの帰り道、突然雨が降ってきた。ドームでは予めいつ降るって予報してんだけど、すっかり忘れちまってて…。


その時近くにあった店に寄ったんだ。シャッターは閉まってたんだけど屋根があったから雨宿りにはなった。


「冷てぇ。結構ぬれちまったよ。」


体育の時用に持ってたタオルを使って濡れたとこを簡単にふいた。そのままタオルをかぶって帰ろうとした時だった。向かいの店の前にも俺みたいに雨宿りしてる奴がいた。俺と同じくらいの背。でも、向こうは俺のことに気付いてなかったみたいだった。白いスティックを持っているのに気付いてわかった。目が見えないんだ。


目の見えない人なんて会ったことがなかった。だから、すごく気になった。


俺は屋根の下から出た。家に帰るんじゃない。隣に行くために向かいの店の下に行ったんだ。


その子は音に気付いて少しこっちを向いた。だけど、それだけ。また雨の降る店の外の方を向いた。


「あんたも雨宿りしてるの?」


俺の方から声をかけた。そりゃそうか。気になったのは俺の方だし。


その子は少しだけこっちを向き、小さな声でこう言った。


『私?…ううん。コンサートを聞いてるの。』


何言ってんだ?最初聞いた時は目が点になった。


『目を閉じて。それがチケットだから。』


よく分かんねぇけど、とりあえず言われた通りにしてみた。目を閉じたらコンサート?何だよ…。


真っ暗になった世界に雨の音だけが響く。それだけじゃない。所々に雨が水溜まりに落ちる音、屋根に当たって弾ける音、葉っぱに当たって弾ける音。少しずつ違う音がまるで曲のように流れていく。まさにコンサートだった。


「スゲェ…。」


こんな風に聞いたことなかったからな。感動したに近い感覚を覚えた。


ターシャとの出会いで俺は色んなことを学んだ。


一つ目がこの

“雨の日の楽しみ方”

だな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ