第五十五話 来客
『それで…ハッ…昨日は…ハッ…孝行はできましたッスか?』
「ああ。しっかりやれたよ。…ハッ…悪いな、気ぃ使わせて。」
ボディーガードの会社だからな。本部にはこういった施設もあるんだ。トレーニングルーム。動かなかいで勘が鈍って殺られるなんて、話になんねぇからな。いつまでもサボってばっかいられねぇよ。
一通りすませたら、シャワーを浴びて、ジャージからスーツに戻った。
デスクに戻ったのは十時半ってとこだったか。
「昨日はどうだった?なんか情報は入ったか?」
俺は席につき、バンに昨日の様子を訊いた。
『ダメッス…昨日報告に入った事件の中でケルベロスがやったと思われるものはなかったッス。でも、昨日の事件の被害者が意識を取り戻したそうッス。もしかしたら、奴について話が訊けるかもしれないッスね。』
回復したのか。そりゃよかった。傷が残ったとしても生きているほうがいい。それに何か手掛かりが訊けるといいんだがな。
「なら、そいつのと――」
『ジェイク・アーベン。お客様がお越しです。接客室の方までお越しください。』
人が話してんのに、挟むなよな。アナウンスだからって。
『何スかね?…先輩、行ってきてください。その間に車まわしときますね。』
「ああ、頼む。」
一体誰だ?
接客室は二、三階に何室かある。どの部屋かはチップにメールくるから、それで分かる仕組みだ。安全のための工夫ってやつ。それにアナウンスで部屋番までいうと長ったらしいってボスが言ってたな。…どっちがホントなんだか。
メールだと208号室っつってたな。トレーニングがてら階段で行くっていう手もあるが、汗だくで客の前に行くのもマズイか…、と踏み止まり、エレベータで下りることにした。
二階。ウチは一階〜五階まで部外者が入ることができる。それ以上は情報が漏れる恐れがあるからな。接客室も下の方の階にあるっつー訳だ。エレベータの扉が開き、208号室へ向かう。どの階とも同じ、青が基調のフロアだ。まぁ、部屋の配置とかは違ってたりするが…。
降りて、左へと進む。211…210…209…丁度、角にあるのが208号室だ。さぁて、中には誰がいらっしゃるんでしょうかね?
“コンコン”
『失礼します。』
入りゃわかるか。ドアをノックし、中へと入って行った。部屋に入ると窓際に立っている男が一人と、ソファに座ってる女が一人いた。
スーツ姿、がたいのしっかりした肌の黒い男―黒人か。俺と同じ匂いがする。客はもう一人の方だな。
部屋の中央にある接待用のソファー、扉側に座っているから顔が見えないが、女性の様だ。
俺が入ったのを見るとボディーガードがその女性に耳うちし、手をとり立ち上がった。
そして、その人は俺の方を振り向き口を開いた。懐かしい声だった。
『久しぶり。また会えたね。』