第五十話 心の洗濯―後編
「今日は俺がいるからよ。ゆっくりしていってもいいぞ。」
『そう。よかった。久しぶりに行ってこよっかな?』
『行っておいでよ、お姉ちゃん。みんなでするから大丈夫だよ。』
ファムがレインの背を押してやってる。ファムは俺よりも先にレインに心を開いた位だ。そうとう気に入ってるんだろうな。
『わかった。じゃあ、ファム、みんなをよろしくね。』
『うん!』
そう言うと、校舎の方へと駆け出して行った。レインも嬉しそうだったが、ファムは帰る間ずっと笑っている程喜んでいた。まぁ、自分の一番好きな人に認められるんだから、嬉しいか。
さて…と。家に戻ってきた。道中は最近の出来事を山のように聞かされた。ケンカで窓ガラス割った奴がいたとか、こんな芸人が最近流行ってるとか。半分くらいしか覚えてねぇ…。でも、四人ともスッゲェ笑顔を見せてくれた。心の奥にある苛立ちを和らげてくれる。温かいなぁ、やっぱり。
「それじゃあ、取り掛かるぞ!」
フランを鎖に繋いで、家の中に戻り、俺はみんなに言った。エルンとバンツ、俺で洗濯物を取り込み、ファムはカイのお守りだ。取り込みに行こうとすると、ファムが服の端を引っ張ってきた。どうしたんだ?
『私も洗濯物手伝う。』
いつもはそんな事言わないんだが…。多分、レインだな。任せられたから張り切ってんだ。
「でもなぁ…。カイはどうするんだよ。」
でも…。と顔をうつ向かせたファムを見かねたのか、エルンが、
『仕方ないわね。ファム、代わって上げるわよ。』
と、言った。気のせいか?なんか自慢気に見える。態度がデカイのはいつものことなんだがな。…もしかして、一番年上だからお姉さん気分を堪能してんのか?
俺とバンツ、ファムで洗濯物を取り込み、畳む。普段俺がいる時はこんな感じに分担してやってるんだぜ?仕事は不定期だし、長くかかることだって少なくない。その間こいつらしかいないからな。分担しないと終わらない。
畳んでしまった後、みんなに宿題とかさせ、俺は晩飯の準備を始めた。
出来るかって?そんな野暮なこと訊くなよ。レインに料理教えたのは俺なんだぜ?まぁ、今はもう抜かれたけどな…。
何作ったのかはあいつらが戻ってきてからだな。
時計の針が七時半を回るかってくらいか。飯の支度ができ、みんな席について残りを待っていた。
『遅いね…。』
バンツが不安そうに声を出した。部活が長引いてんのかな?仕方ないな。
「先に食べるか。」
そう言った矢先だった。ベルが鳴った。誰か帰って来た。席について待っててもいいのに、全員出迎えに行った。そうゆう俺もいったんだけどな。玄関まで走って行くあいつらを追いかける。歩幅が全然違うから歩いても追いつく。
玄関にいたのはレインだった。
『おかえり!』
みんな口を揃えてレインに言う。
『ただいま。ファム、みんなしっかりやってた?』
『うん!私、しっかり見てたから、大丈夫!』
よしよし、とファムの頭に手を乗せる。ファムは最高の笑顔をしていた。それから、ファムたちに急かされレインが上がった時だった。
『ギリギリセーフ!』
バン、とドアを開けて入って来たのはガンとスーエンの二人だ。全力で帰ってきたんだな。汚ぇジャージのままだし、息も切れてる。何がセーフなんだかわからねぇよ。レインも帰ってきてるし…。
飯食う前に二人には風呂に入らせ、先に食べることにした。
『すごい料理…ねぇ。』
小声でレインが言ってんのが聞こえた。
今日俺が作ったのはハンバーグだ。あと、ポテトサラダとか細々したのもあるが、メインはそれだな。
他のみんなは喜んでいるけど、レインは知ってんだろうな。ハンバーグって案外簡単なのを。まぁ、ちょっと工夫はしたけど、いいじゃないか。定番だけどうまいんだから。
『いただきます。』
手を揃えてみんなで声を揃えて言う。
『おいしい!』
なんて言って貰えるとやっぱり嬉しいねぇ。
『中にチーズが入ってる。』
そう!これが工夫。つってもこれだけなんだけどな。
『なんだよ。もう食ってんのか?スーエン、俺たちも食おうぜ。』
シャワー浴びてきた二人が戻ってきた。席についた瞬間、いただきます、つって早速食いだした。早いなぁ。
「どうだ、レイン?」
隣の席に座っているレインに尋ねた。
『七十点かな。』
「ハハ、厳しいなぁ。」
『皿洗いと掃除してくれたら百点にしてあげる。』
うまいこと言うな。百点欲しいからする羽目になるんだろうけど。
今日一日は、俺にとって大きいもんになると思う。またこんな風に楽しくできるのはいつになるかわからない。また負担かけることになるかもしれない。ごめん。そして、ありがとう。