第四十八話 惨状
『先輩。おはようございます。』
現場に着いた俺をバンが迎えた。こいつも眠たそうな顔してるなぁ。人のこと言えねぇから口には出さないでおこう。
「どうだ?」
『えぇ、ターゲットはウッド・サーテン。アマデトラと言う中規模の食品輸入会社の代表取締役を勤めてました。ボディーガードが時間稼ぎしている間に逃げようとしたところを撃たれたみたいッス。頭を貫通して即死。ボディーガードは一名が意識不明の重体。残り四名は…全員悲惨な死に方ッス。さらに離れたところ…大体五百m後方に当たるんスけど、もう一台同型車があってそこにも犠牲者が三名。同じく悲惨な姿に…。二台で敵をまく作戦だったようッスけど、ケルベロスには通用しなかったようッス。』
昨日肩と片足をやられた奴が出来ることなのか?つっても、こんなこと出来るのはケルベロスしかいない。あいつは一体何者なんだ?
現場にはもう死体は片付けられていて、テープで型どった人型と乾いて道路の色とあんまり変わらなくなった血、あと、爆弾でも使ったのかアスファルトにひびがはいっている位しか残っていない。
「家族だっていただろうに…。」
俺は手を思いっきり握りしめていた。
奴の犯行だってのはわかった。だが、肝心の居場所についての情報はない。ターゲットの関連性もねぇな。重役ばかりだと思ってると、芸能人も手にかけたりする。裏で何かしてるって判ってる奴もいれば、なぜ狙われたのか判らないような奴まで…。だから、奴を待ち伏せて捕らえるってことが出来ねぇ。俺たちが見れるのは全て終わった惨状だけっつー訳だ。
そりゃ、こんなこと言いたくなんかねぇよ。だけどよ…。くそ…。
自分のふがいなさと、奴への怒りをどこにも発散できず、自分の中に溜め込むしかなかった。
警察からの情報を待つため、一旦本部へと向かった。
デスクに上がるエレベータの中であの口うるさいに会った。
『あんた、安静にしときなさいって言ったのに、何出てきてんの!』
サロナ…。てめーは俺の保護者かってーの。
「うるせーよ。このくらいなんでもないっつーの!」
怪我気にする暇なんてねぇよ。アイツ捕まえねぇといけねんだからな。
『そうッスよ、先輩。ここんとこ毎日遅くまで帰らないんスから、たまにはレインちゃん達に楽させてあげてくださいよ。』
バン、お前まで…。
「だがよ…。」
『大丈夫ッス。こっちは俺に任せて下さいッス。何か重大なことが分かったら、報告するッスから!まぁ、後輩を信用できないんでしたら残って頂きたいッスけどね。』
…全く。
「なかなかいい口持ってんじゃねぇかよ!…わかったよ。ありがたく帰らせてもらうよ。」
悪いな、バン。この礼はいつかちゃんとすっからよ。