第四十七話 夜が明けて
「ったく、こんな時間に出ねえとならないなんて…。」
時計は六時を少し回ったところ。朝っぱらからスーツ着させるなんざ最悪だ。ネクタイ曲がってねーか?
つーのも、またケルベロスが動いたらしい。いろいろ調べたがケルベロスが動くとすれば間に一週間は空く。しかも、この前の傷が残ってるはずた。そんなんで動くか?
しかも、お偉いさんだけじゃねぇ。ガードも付いてた。うちの会社ほどじゃないが、それなりに力のあるとこのトップグループに入ってるメンツだ。それをあんな体で仕留めるとは…。恐れ入ったね。
警察じゃないもんだから、現場検証には立ち会えねぇが奴の首には金かかってるから警察もある程度情報を流している。だから被害者とかも分かるんだがな。
あいつらは今寝てる。昨日遅かったから、朝も会えなかったら怒るだろうなぁ。悪い。
起こさないよう下に下りると、キッチンからいい匂いがしてくる。
レインだ。朝早く起きてみんなに弁当を作ってやってるんだ。レインはしっかりしているからつい頼っちまう。家事や食事、下の子連中の世話とか…。それでも成績は学年トップ。毎晩遅くまで頑張ってるのを知ってる。きっと友達とかと遊びたいとか思ってるはずだ。…俺がしっかりしないといけないな。
『おはよ。もう出るの?』
俺に気付いたレインがにっこりと笑いながら言った。
「ああ。行ってくるわ。」
俺も笑って言った。ただ、それだけじゃいられなかった。
「レイン…。」
『何?』
“ポン”
レインの頭に手を乗せた。よしよし、と小さい子を褒めるように…。
「ありがとうな。…」
ちぃーと恥ずかしくなって、手を離した。
「じゃあ、行ってくるわ!」
俺が大黒柱としてみんなを引っ張っていかねぇといけねぇのに、レインやみんなに頼りっぱなしだな。働くだけじゃだめなんだ。俺がただ一人の親なんだからな。
まだ人もほとんどいない街の中を独り歩いて行った。
現場までは結構距離があった。車でニ十分くらいか。着いたときには警察は調べ終えたんだろうな。警察の車両は数台だけで、その周りには―たぶん賞金稼ぎだろうな―何台か普通車が止まっている。賞金稼ぎってのはその名の通り警察が出している賞金首を捕らえる連中だ。団体が少なく個人や数人のグループってのが多い。賞金首の中にはかなり少数だが殺してもいいと付けられている奴がいる。捕まえるよか、命を奪ったほうが早いからなぁ。しかも額が相当な場合ばかりだ。だから、どんな凶悪犯だとしても、そいつらを狙うのが多い。ケルベロスなんてまさにそれだな。
俺たちはどっちかってっと誘拐犯として追ってる。だから生かして捕まえないと場所を吐かせられねぇ。だが警察は何十人と殺してきた殺人犯を野放しになんか出来ねぇからな。そもそも生かしてるはずないって考えだ。だから、殺してでも止めさせたいから、一生遊んで暮らせる位の額を掛けている。
絶対に遅れをとったらダメだ。