第四十六話 差す光
あの時―側近の奴が撃ってきた時―十分避けれた。だが、身体は避けようとはしなかった。心の何処かに…命を失うことを望んでいたのかもしれない。
自分の手を血に染めることを―。
生きていくことを―。
この道に落ちる時の決意は本物だった。だが、この復讐の被害者は自分自身のみ。所詮、自分の人生がねじまがっただけだ。他人の火を消す罪悪感は越えられなかったのかもしれない。
そう考えると、余計この娘に殺し屋であるということを話せそうにない。自分を救った奴がそんな者であるなど、知りたくもないだろう。見せる、と言ったが、そんな気はさらさらない。
今となってはこの娘は俺とコインの表と裏ほどの違いがあるだろう。外に出て見たこともないものに囲まれ生きていると実感している娘。心が死にかけている俺。
「外は楽しかったか?」
治療の音しかしなくなっていた俺の部屋で俺から話しかけた。考えても暗くなるだけだ。生きる道は今さら変えられない。
『うん!あのね、人がうじゃうじゃいたんだ。それでね…』
彼女も話したいのを我慢していたのかもしれない。栓を抜いたようにとめどなく言葉が出てくる。
訊いておいてなんだが、話の内容はほとんど覚えていない。ただ、彼女の目の眩しさだけは頭にはっきりと残っている。
『よし!出来たよ。上出来でしょ?』
口だけでなく、ちゃんと手も動いていたようだ。しっかりと包帯も巻かれている。これだけできるなら今度から彼女に頼むか…。
「ああ、ありがとう。」
報告だけしないといけないからな。コンピュータルームに行こうと立ち上がりながら言った。
『そうそう!狼さんは笑った方がいいよ。』
無意識に微笑んでいたのか。そんなつもりは微塵もなかったのに…。もしかしたら、彼女は気付いていたのかもしれない。だからこそ、俺が聞いていなくても明るく話し続けてくれたのかもしれない。
『…だから、シンだ。』
当たり前の答えしか言えなかった。考え過ぎだったかもしれない。それでも表情に出さないよう気をつけたが、心の中では何かが揺れていた。何の感情か判らない。久しぶりの感情で判らない。それに戸惑っていた。
心にかかっていた霧が少し…晴れたような気がした。