第四十四話 チェックメイト
本当は何発も撃った。だが、痛みで手が震え、狙いがさだまらない。かろうじて当たったのが奴の左肩に一発。
当たる前に何発も外したのに奴は避けようとしなかった。
私が撃ち尽くすと、こちらを向き、私の方に近づいてくる。
急いで弾の入れ替えをしようとしても手が震え、上手くいかない。
“コツッ、コツッ”
奴はさっきまでの速さとうって変わって、一歩、一歩ゆっくりと近づいてくる。
もう少し…よし。
冷静さをなんとか保ちながら、弾を入れ替え、銃を構える。奴はもう目の前にまで来ていた。
“シュッ”
構えた瞬間、私の右手が銃と共に消えた。奴はまたあの速さで、私の手首を切った。速すぎて刀が見えない。
私は声にならない悲鳴をあげた。切口を押さえ、体を丸める。痛い…。私はここで死ぬのか?
『…ここで…死な…』
奴が何か言った。上手く聞き取れなかった。
刀を私の方へと向ける。冷たい光を放つ刃が私を映し出し、そこに仲間たちの血が流れてくる。振りかざそうとしたその時だった。
“ブロロロロ…”
これはエンジン音か?そんな音が聞こえた途端、振り上げた刀を構え直し、音のする方へと走り去った。
―ウッド・サーテン
じょ、冗談じゃない!こんなところで死ねるかぁ!黒服の男がボディーガードたちに気を取られている間に逃げてやる。
車に乗り、エンジンをかける。鍵はささったままだから、回すだけですんだ。エンジンはすぐかかった。
「よし!じゃぁ、さっさと…」
アクセルを踏んで車をだそうとした時だ。
“ドン!”
突然、車全体が揺れた。逃げ出すなんて、不可能だった。奴が車に飛び乗った。左足の銃を取り出し、フロントガラスごしに銃を構える。は、早く車を出さないと…、そう思い、アクセルを全力で踏んだ。
だが、焦る気持ちと裏腹、車はなんの反応もしない。
「な、なんでだよ。早く動いてくれよ。」
もう一度踏み込もうとすると、
“コツン”
黒服の男が銃をガラスに当てた。撃つ気だ。
「ま、待て。殺さないでくれ。金ならある。貴様は雇われてるんだろ?雇主よりも、もっと出してやるから。」
奴は何も返事をしない。だが、目が…殺気が答えを物語ってやがる。
NOだ。
撃たれる。とっさに車から出ようとドアに手をかけた瞬間、
“バーン”
『任務…完了。』