第三十九話 ロックオン
出る時には全てを照らしていた月の光もいつの間にか雲に隠れていた。世界の光は俺にはまぶし過ぎる。以前はあの中にいたことが信じられない。
相棒の情報によると、ターゲットは間もなくこの道を通るそうだ。車二台の内、後ろの車に乗っているようだ。
裏取引などを行う場合、反重力システムを持つ車では足がつく。シリアル付きの発信機が付いている上、登場者の履歴がつく。というのも、全ての人にはチップが付けられているため、読み取られ、交通センターに送信される。そうなれば、密会の証拠になりかねない。
旧式の車にはそれが付いていない。個人のチップにはプライバシー保護法のため、緊急時以外の発信機能はロックされているので足がつかない。だから、この手段で移動するものが多いのだ。
相棒はそのロックされている発信機能を解除し、居場所を指示してくれているのだ。さすがハッカーだな。
全ての人…と言ったが、一部例外がいる。俺や…それにあの娘だ。昔、人間だったころは埋め込まれていたんだが、改造されてからはなくなっている。チップは生まれてすぐ心臓に埋め込まれ、取り外せば命を失うことになる。それなのに俺は生きている。どうしてかは解らないがおかげでこの仕事に役立ってくれている。
あの娘の場合は埋め込まれてはいるんだが、ロックのパターンが他とことなっているそうだ。何種類かあるロックのどれにも当てはまらないらしい。しかも、外せはしたそうなんだが、中身が空。何の機能もないそうだ。身分証明、財布…全ての機能がない。これも前例がない。
どこまでも似ている。
遠くから車のライトが見えてきた。さぁ、始まるぞ。今日の喜劇が…。