第三十八話 手掛り
※NC…NEW CHOICEの略称です。それではどうぞ。
『じゃあ今日も遅くなるの?』
「ああ、悪いな。飯の当番今度代わるから許してくれ。」
『…仕方ないなぁ。なら、今度のジェイクの番は贅沢にしてよ!』
「わかった、わかった。スゲーの期待してろよ。じゃあまたな。」
ふー。仕事が長引くと、いつもレインに飯番代わってもらわないといけないが、レインを頼りすぎだよなぁ。すまん、レイン。
資料の方は目を通した。身長、体重はもちろん、スリーサイズ、指紋に性格、生い立ち…いくらなんでも詳し過ぎだろ。プライバシーとか関係なしッスか。アイドルでもここまではないだろ。ちょっと気持ち悪いぞ。
…で、目通し終わったなら、何してんだってーと、実は目撃情報が入ってきたんだ。“NC”っつー総合デパートの中で、それらしい少女が二十代の男と女と共にいた、って。スゲーだろ、ウチの情報力。場違いな黒いフード付きのコートなんて着てたらしいから、人目についたらしんだが…。当たりかどうか調べるために、そのデパートの監視カメラを調べてるってな訳だ。
『まさか、こんなにも早く見つかるとは思ってなかったッス。』
さっきまで顔が固まったみてーに表情変えずに資料見てたバンは安心したんだろう、少し笑みをこぼしている。
「まだ決まった訳じゃないだろ。気ぃ抜きすぎだぞ。」
なんて言ってるが俺も期待している。本人であれば、同行している連中から“ケルベロス”に繋がるはずだ。そうなれば一件落着。彼女を救えるわけなんだが…。なんか引っかかる。
『そろそろ目撃された時間ッスよ。』
時刻は十二時四十分。もうすぐ映りだすはずだ。四十一…二…三…。
ところが四十四分になるかならないか、といった時間に悪い予感が当たってしまった。
その瞬間にすべてのカメラの映像が止まった。
「どうしたんだ?」
『こ、ここから全ての記録が消えてしまっています。』
やられた。今どきネットに繋がっていない機械はない。この管理室にも繋がっているんだろう。ハッキングされ、消された可能性が高いな。こういった情報管理を行う場所のセキュリティは高いはず。ハッカーも実力が相当なものだろう。
『…結局手掛り無しッスか。』
消されていたが一応データをもらい、退くことにした。本部へ向かう車の中でバンが溜め息混じりに言った。
「いや、少なくとも本人の無事はわかったんだ。それだけでも判ればいいさ。」
そうさ。まだ始まったばかりなんだからな。あいつとの戦いは…。