第三十七話 出撃
地下に下り、バイクに股がった。
あの娘の部屋の前を通ったとき、物音がしなかったので覗いて見ると、部屋は足の踏み場もないほど散らかっていた。当の本人はベッドの上で寝息をたてていた。無知とは幸せなものだ。お前と共に暮らしている人間は人殺しだというのに…。
手袋をはめ、エンジンをかける。トンネルにはエンジン音が響いている。このバイクには反重力システムは積まれていない。というよりかは反重力システムはまだまだ大型で、バイクには大き過ぎるのだ。
それでも、車よりは小回りがきくので敵をまくのに都合がいい。それに道も無数に通っているので、積んでなくても問題ない。
『…ザー…準備OKェ?道のデータを送っといたよぉ。』
さっきも言ったが道は無数だ。この仕事をしているからには、ターゲットのところまで行くのに最も人の目に触れない道を通らなければならない。それに…迷って仕事が出来なかった、なんてことになったら…。だから、いつも道のデータを送ってもらう。送られたデータはバイクのモニターに表示される。
「ああ、来た。」
この会話は無線を使っているんだが、特注品で、イアリング型の受信機から声を受け、襟首のピン型の発信機から声を送るというスタイルだ。ここまでの小型は世に出回ってはいない。
「行ってくる。」
薄暗いトンネルの中を進んで行く。さきの見えない未来と同じ…。
今日は前回のように強い奴はいるのだろうか…?この俺の役目を終わらせてくれる人間はいるのだろうか?
エメラルド色に輝く月明かりだけは今も昔も変わらず世界を照らしている。