第三話 ボディーガード
あいもかわらず降り続く雨に溜め息を漏らした。
ボディーガードとしてもう五年目になるか…。金貯まんねぇなぁ…。いや、業界No.1の俺だから、貯まらないっていうより、消えちまうってのがホントのとこで…。
会社はビルの数に匹敵するって言われてる。って、ことは、職の数も山のようにあるってことだ。っつーことは、探せばこんな仕事しなくたって、やっていける。っても、高校から荒れちまってた俺には暴力団に入るしかなく、今の方が丸くなってていいんだろうがな…。
道を変えることになった、きっかけは兄貴が死んだことだった。
俺の実家は道場で親父が空手、お袋が柔道っつー武道家夫婦で俺と兄貴は小さいころからしごかれてた。兄貴は高校卒業して、実家に戻って道場を継ぐことにした。長男だし、俺グレてたからなぁ。
それから六年たった―俺が暴力団にはいって三年目の―ときだ。縁を切ってたお袋から突然、兄貴が死んだことをしらされた。電話の向こうのお袋は何を言っるかわからないほど…泣いていた。
兄貴は子どもをかばって死んだらしい。ありがちな話だ。自動車にひかれそうになった子どもをかばって死んだ。話を聞いて、兄貴の亡骸を見たが、涙は出なかった。
「兄貴の助けてやったガキはかすり傷ですんだらしいぜ。」
冷たくなった兄貴にそう伝えると、一緒、兄貴が笑ったように見えた。やっと分かった。そりゃ、泣けねぇわ。
「“守る”ってのはそんなスゲーことなのか?」
『死人に口無し』っつーけど、ありゃ嘘だね。兄貴の顔は、
『最高さ』
っつってた。だから、俺は暴力団を抜けて、ボディーガードの道を歩くことにした。あんな晴れた死顔になりてぇから…。