第二話 復讐者
雨が激しくなってきた。
仕事をするにはベストな環境だ。
雨は返り血を洗い流してくれるし、音は悲鳴をかきけしてくれる。
俺は今日の仕事場を前にそんなことを考えながら、真っ黒な空を見ていた。
360゜…いや、この世界には空の向こう側にも…下を見ない限りビルがならんでいる。ちょうどボールの内側のような大地に貼り付いているような状態だ。
ビルの中にはあらゆる施設が入っている。
企業はもちろん、学校、病院、娯楽施設、家まであの中にある。
ただ、ビルの根本はドス黒い煙が充満し大地を見ることは出来ない。地下には工場区があり、そこから漏れる排気ガスが充満してしまっているのだ。
人はそのガスから離れるために工場区を完全に機械化し、ビル同士に連絡通路を作り上げ、『反重力システム』というものを備えた空を飛ぶことのできる車を生み出し、逃れている。
この状態は俺には都合がいい。俺は今ある組織に身を置いている。“殺し屋”―いわゆる裏の世界に―。
目的はただ一つ。俺をこんな姿にした奴らを探しだして殺すためだ。そのためには、少しでも探す範囲が少ないほうがいいからだ。例え、何百万ものビルが並んでいようとも…。
それに他人に見つかってはならない。地表に近いガスの中は隠れるのに最適だ。ガスで居場所をカモフラージュできるからだ。
―そろそろ仕事の時間だ。今日もまた、復讐を詠い、心のない人形を演じ、命の花を摘むのだ…。
仮面をつけ、黒いフード付きのコートを着る。いつものスタイルだ。闇に溶け込むには最適だ。作戦通りにさっさとかたずける。