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第一七〇話 穏やかな朝

目覚ましがなる五分前。いつも通り目が覚めた。身を起こして、片手を伸ばすと冷たい箱に触れた。手で掴める位の大きさのそれに指を這わせてスイッチを切った。不思議と目覚ましをかけないと自分では起きられないんだ。変わってるよね。


窓から見える外は綺麗な青空だった。雲一つない快晴。ドームの中は天気が管理されてて次の日の天気は間違いなく住んでるみんなに伝えられる。だから、快晴だってのも知ってたんだけど、ただの映像だけど、見ていて気持ちいい。


私たちがドームに初めて着た日、ドームの中と外は別の世界みたいだ、って思った。外は月が明るい間は、眩しくて向こうの都市が見えない。ビルが林みたいに建ち並んでて、冷たい印象を受ける、同じような色しかない。窓から見る風景は少し怖かった。月が暗くなると世界は少し穏やかになる。淡い緑色の光に照らされて、冷たい色が少し和らぐんだ。それでも、内の世界とは全然違う。空は見てるだけで暖かく感じる。何度も言うけど、ただの映像でしかないんだけどね。一面青で染まっていたり、灰色で覆われている時、夕方は朱と紺が入り交じり、夜は黒に近い紺に淡い緑の月や星が輝いてる。昼夜を照らす月以外、みんなただの映像。それでも私は空が大好きになった。ドームに住む人たちはみんなそうだと思う。


部屋から出ると、静かな廊下が続いてる。窓から光が入り、薄明るく照らされている。今日も私が一番だ。何の気無しに嬉しくなる。突き当たりにある階段を下り、リビングに目をやると、様々な色が飾り立ててある。今日はファムの誕生日だ。昨日みんなで飾りつけたんだった。ジェイク以外。そういえば、ジェイクは帰って着てるんだろうか、と気になったけど、止めた。テーブルの上に昨日の夜にはなかった包みを見つけた。横長で私の肩幅くらいの長さがある白い包装紙で包まれた箱は片手で持つには少し重かった。何だろうか、と考えたが、箱の下に敷かれていたメモに直感とあまり差のない答えが書いてあった。


“バンからファムへ。”


一度で二つの問に答えが出た。これが何か、ジェイクは戻ってきたか。ちょっとだけ得をした気分だった。たまたま特売品を見つけたような。例えが、完全に主婦だ。


そういえば、ジェイクは今バンさんと仕事してるって言ってた事を思い出した。ということは、ジェイクが戻ってる間、バンさんに負担をかけてしまうんだろうか。


「バンさん、ありがとう。」


自然と言葉が出た。別に誰かに言った訳じゃない。ただ、そう言いたくなっただけなんだ。


朝食を作る前にシャワーを浴びた。今日は何の授業があるか、宿題はしたか、友達が風邪をこじらしてたがもう良くなったか、そんな些細な事を考えながら。おかげで、一つ忘れ物をしそうになっていた事に気がついた。後で入れておこう。


髪を乾かし終え、一度部屋に戻り制服に着替えた。時計を見ると六時半を少し回る所だった。七時を過ぎると少しずつ起きはじめる。朝食を用意するには十分時間がある。先に洗濯機にかけておこう。それから朝食を作ればいいか。


洗濯機は回しておけば、干す係に後を任せておけばいい。


「よし。」


スイッチが入ったのを確認してキッチンに向かった。廊下に出ると、そのキッチンから物音がする。さっき二階の部屋から下りてくる時は何もなかったのに。誰か起きたのか。


『おはよう。』


男性用の紺のエプロン−去年ファムたちと誕生日に買ったものだ−を身に付けたジェイクが立っていた。ついさっき朝食の準備を始めたみたいだ。包丁で切る音がリズミカルに響いてる。


「おはよう。今日はジェイクが作ってくれるんだ。」


指定席のイスに座ってジェイクの様子を見ることにした。黄色に白の水玉模様の入ったテーブルクロスの上に乗っていた包みはまだそこにあった。ファムが起きてくるまでには隠しに行かないと。包みを見ていたのに気づいたみたいで、ジェイクは自分の手元を見たまま少し声を大きくして言った。


『メモ見たか?バンからのだから、夜まで隠しといてくれ。』


「わかった。」


ついでに忘れ物もカバンにいれておこう。包みを抱え、二階へ上がった。

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