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第一六九話 舞台裏三

「そうか。自ら命を絶ったか。」


月明かりが差す薄暗い私室にヤジを招き、報告をもらった。キースがどう息を引き取ったのか、どうしても知りたかったのだ。肘掛に乗せた腕で首を支えた。笑いが生まれ、腕が振るえる。小さな波が、事実を飲み込む度に、ついに声に出るまでになった。


「望んだ通りにはいかなかったようだな。」


『彼は本当にあの男に殺されたかったのでしょうか?』


笑いが収まりだした頃、ヤジが私に問いかけてきた。ヤジはキースという男についてあまり認識がないのだから仕方ないだろう。態勢を一度正し、話をする姿勢をとった。


「彼、いや、キースという男は他人を一番に考える男だった。自分を犠牲にしても、家族や友人の為に生きる。自己犠牲の精神を持っていた。そんな人間が、大切な物を守るために親友を裏切ったんだ。自分を許せるはずがない。裏切り者と罵られ、憎まれた人間に幕を引いてもらう。身勝手と思うかも知れないが、彼にはそれ以外に自分を許すことが出来なかったんだろう。結局、不慣れな役回りではそう上手くはいかなかった。失敗する事も考慮していたのだろう。旧式のリボルバーでこめかみを撃ち抜いた。壮大な人生じゃないか。涙を誘うかもしれないね。」


涙、なんて出るはずもない。出てくるのは、乾いた笑いだけだ。大切な物を守るために、別の大切な物を捨てた。結局、自分にとってどちらが重要なのか、それを選択したのだ。肝心なときに自らを犠牲に出来なかったのだ。そこまでの人間だということでしかない。


『私にはわかりません。そういうものなのでしょうか?』


「そういうものさ。」


ヤジはどういう表情をしていいのかわからないらしい。仕方ないか。忘れてしまっているのだから。


『そうなのですか。もう一人、ジェイク・アーベンは条件に当てはまる男でしたか。』


ヤジの言葉で思い出した。そうだった。私の方の話をしていなかった。悪いことをしてしまった。数時間前にあったことが、遠い昔にあったことのように記憶の端にしまい込んでいた。


「期待通りだ。もう少し動揺しているものかと思ったが、彼女を失ったことでいい具合に引き締まっているようだった。まぁ、相手は私を本気で狙っていたわけでもないのだから、底を見ることが出来なかったのが残念だったがな。」


とはいえ、次の段階には、やはり計画通りに進める必要がある。失敗する可能性は少しでも小さいほうがいい。


「以降も計画通りに行うとしよう。」


この次も私たちの計画の重要なステップになる。ヤジのみに任せることになるが、期待通りに働いてくれるだろう。


「次も重要な段階だ。頼むぞ、ヤジ。」


感情のない両目を見つめながら声を落としつつ念を押した。


『はい。アーサー様。』


一礼を返し、彼は背を向け、部屋を出て行った。

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