表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
168/173

第一六八話 喪失 -裏-

この結果を相棒は許さないだろう。それでもしかたない。だからといって戻せるものではないのだから。電車の轟音に耐えながら、今後について考えた。身近なことから。戻れば何を言われるだろうか。彼女にも聞かれるだろう。どう答えればいいのだろうか。友は敵だった。本当にそう言うのか?


いや、止めよう。考えをそらすのは。今後について考えなければ。どう、生きていくか、だ。キースはもうあの技術−どう呼べばいいかわからず、ずっとそう呼んできたが−は手の届かない所にある、と言っていた。あの言い方からすると、俺のみに当てはまる、というわけではないようだ。誰であろうと、もう触れられない、そういう言い方だった。ならば、もう追う必要はないのではないか?昔の生活に未練がない、というと嘘だが、戻りたいわけでもない。もうわかっている。戻れた所で馴染めるはずがないのだ。


電車の勢いが落ちた。乗り込んだ駅に着いたようだ。近くの廃墟にバイクを置いてある。目と鼻の先だ。


一度眠ろう。考えるのは明日でも構わない。


『…お疲れぇ〜。』


唐突に無線が入った。気の抜けた声が届く。相棒だ。どうやら寝ていたようだ。


「ああ、よくわかったな。」


もう寝ているだろうと、報告は明日にするつもりだった。だからもう無線を使わないだろうと考えていた。つまり、俺は相棒にまだ終わった事を告げていなかった。


なにか嫌な予感がする。


『ん?だって流れてるよぉ?』


欠伸を噛み殺しながらなんとか言い切る。何が流れているんだ?自然と歩みが速くなっていく。唾を飲み込む音が妙に大きく聞こえた。


「何の話だ?」


少し声を張り上げてしまった。その声に、こちらが理解していないのを汲み取ったのか、眠気を帯びた声に少し力が入った。


『なんだ、ワンコがやったんじゃないのぉ?ちょっと関心したのにぃ。』


関心した、だなんて言葉を聞いた状況で、今まで一度として皮肉以外に思えた事はなかった。いつの間にか、走り出していた。少しでも早く帰りたかった。何が起こったのか。


『だからさぁ、お亡くなりの事さぁ。』


ぴたり、と足が進む事を止めた。反動で上半身が前に傾いたが、なんとか立て直した。


「死んだ?どうして?」


キースが死んだ。そういわれて、ただただ聞く事しかできなかった。月明かりという微かな光に浮かび上がる廊下に声が響いた。どうやってここまできたのか覚えていない。


『あ。なんだ、自殺なのかぁ。ホントにワンコじゃないんだぁ。』


自殺?キースが?俺と会った後にか?死にたがっていた。確かにそうとしか取れない態度をしていたが…。だが、しかし…。


まともに思考などできなかった。最近こんなことばかりだ。何も考えたくなかった。無線の声はまだ何か聞こえていたが、生返事を返して聞き流した。いつの間にかバイクに跨がり、ハンドルを握っていた。かと思えばもう地下の蒼い光が視界を支配していた。バイクを下り、部屋に着けば、モニターにはキースが死んだという知らせで塞がれていた。


それを見ても、相棒の悪い癖だと、自分をごまかしていた。


飲み込めたのは一度眠りについてからだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ