第一六五話 終わっていたこと -裏-
不定期で申し訳ありません。今後もまた不定期になることが多いかも知れません。読んでいただいている方には申し訳ないです。自分としても特に書きたい部分に差し掛かってきましたので、できるだけ早く進めていきたいと思います。
結局、促されたまま、刀を鞘に戻し、キースの向かいのソファに腰を下ろした。それを見届けてから、あいつは口を開き始めた。
『俺ってさ、昔から何やっても結構出来る奴でさ。しかも人が良かったからいつでも人気があったんだわ。やりたい事やってきて、全部上手くいってて楽しかった。』
「おい。」
思わず呆れた声が漏れた。
『悪い悪い。別に自慢とかじゃねぇんだ。ホントの話。』
自慢話をしていたから呆れたわけじゃない。相変わらず変わらないところに呆れたんだ。そして、こ憎たらしい話をしてもムカつかないのが昔から不思議だ。
『大学でもそうだった。友人にも恵まれたほうだし、サークルにバイトに忙しかったが上手くいってた。充実してた。』
「…。」
そこで、言葉を切った。無言で昔を思い出すように遠い目をしているキースが次の言葉を言うのを待った。短い間だったが、先ほどとは違う雰囲気を持って再開した。
『結局、一番欲しかったものは得られなかった。』
明るさは元々なかったかのように消し飛んでいた。
『お前にも一度話したか。あいつの事が好きだったこと。お前よりも前から好きだった。言葉にすればよかったんだ。一度でも。そうやって伝えればよかった。だが、俺はそれをしなかった。その時の居心地のいい関係を壊すのが怖かった。』
そこから狂っていったのか?声にしようとしたが、すぐにキースが答えをいった。
『お前がどう仕様も無い奴だったら、どれだけ楽だったろうな。俺が追い払うか、あいつが捨てるか、そんなところで終わってたろうに。俺の方がお前を気に入っちまったからな。余計にたちが悪かった。お前らが仲良くしてる姿を見るたびに、どうしようもないものが溜まっていった。プロポーズした、結婚した、子どもができた。素直に喜んでやりたいのに、底には黒いものが溜まっていくんだ。この世界のようにな。』
何も言えなかった。そばにいた親友がこんな感情を抱いていたことに、まるで気づけなかった。
『“一人渡してくれ。後処理は我々がする。代わりに地位と名誉をやる。”そんな誘いが持ちかけられた。相手がお前さえいなければ、なんて考えがなかったとは言わない。だけど、その言葉を聞いたとき、黒いものが溢れ出てきたんだ。怪しい話に乗った、というより、その言葉が契機だった。』
「それだけか?」
平静を装って、言葉にした。女。それが理由だと語る友。もう自分がどう考えているかわからなくなった。憎んでいるのか、同情しているのか、軽蔑しているのか、何も感じていないのか。
『ああ。そんだけさ。安心しろよ。お前がいなくなっても妻は幸せだし、子どもだってちゃんと愛してる。まぁ、代わりにちょっとした手伝いとか続けさせられてるがな。』
立ち上がりざまに鞘に閉まっておいた刀を抜き、喉元に再度突き付けた。
『なんだ?斬るか?』
きっと睨みつけ、憎んでいるのだと自分に言い聞かせながら、重々しく言葉をひねり出した。
「肝心な事を話していない。この身体を造った奴は誰だ?誰がその技術を持ってる?」
『ああ。悪かった。そういや言ってないな。安心しろよ。お前もう会ってるぞ。』
思わず身体が反応し、少し震えた。既に会っている?
「どういう事だ?」
さっきまでの表情と一変し、口の端を釣り上げ、楽しんでいるかのように続けた。
『彼の持ち物だった女の子は元気かい?』
「まさか。」
息を呑んだ。喉が鳴る音が不自然なくらい大きく聞こえた。
『復讐の半分はもう終わってたわけ。』