第一六〇話 騒音 -裏-
けたたましい音が鳴り響く。いや、鳴りつづける。耳を押さえ続けていても、ほとんど意味がない。本当にこの身体が憎くて仕方なかった。
確実な侵入経路として、相棒が提案したのは電車だった。目的のビルには電車が止まる駅がある。ビルとビルを繋ぐ電車に乗れば、乗っている間に勝手に運んでくれる。
ただし、どんな駅であろうと、この姿の俺を客として扱う場所はない。普通でないから、普通には乗れない。でなければ、こんなにも苦しむ必要はないだろう。
まさか、電車の上に乗ることになるとは。乗り心地は良くはないが、落ちないよう捕まっているのはそれほど難しいはなしではない。負の要素は音。これに限る。
相棒に反論したかったが、こうして一つ前の駅まで来れてしまっては何も言えない。
発車を告げる高い音が消える前に、車体が揺れた。次の駅だ。音から解放感とともに、複雑な気持ちが沸き起こった。いや、後者は元々あったが、嫌悪感で見えなくなっていただけだ。ここまで来てまだ腹を括れていないと思うとなさけない。
ただ会いにいく。それだけなんだ。命を狙いにいく訳でもない。情報を絞り出すだけだ。鈍感なあいつが俺だと気づくはずがない。気づかれたら、奪わなければならない。
何を心配しているんだ、俺は。気づくはずがない。どんなに察しのいい人間だとしても、ここまで原型を留めていないものをどう理解する。わかってもらえるはずがない。
そう考えると、冷ややかな笑みが零れているのに気がついた。
電車は徐々に速度を下げていく。もうすぐ着く。ビル内部にある駅の停止位置の真上にダクトがある。大きさは俺が悠々通れる程の大きさだ。そこから侵入する。エレベータの通路まで進み、後は目的の階まで上るそれだげだ。
上り切ってしまえば、監視を抜けて部屋に侵入する。ただの監視カメラではないらしい。詳しくは行けばわかると言っていた。大体想像がつく。無人機だろう。一定のコースを自動で回る機械、いや、兵器といった方が正しいだろうか。相棒が手を回してくれる。監視カメラより厄介らしいが、何度かした経験だ。問題ない。
それをかい潜ればキースがいる部屋。情報を得て、帰りはただ逃げればいい。これだけだ。手掛かりが掴めればいい。それだけ心配すればいい。
電車が完全に停止した。入り口もすぐそこに確認した。