第一五七話 告白 -狭間-
「トーイッシュ?」
勝手に使ったのが見つかって、その事で話がある、と言われた。片付けとか済んだら連絡してって。そんな怒ってる感じじゃなかった。だけど、トーイッシュはよくわからない。見えないだけで、すごく怒ってるかも知れない。
『ああ、セフィー。もういいの?』
「うん。」
乾いた声。興味なんてなく、どうでもいいって感じだった。何かあったのかなぁ。
『そう。で、何調べてたのぉ?』
何調べてたのかなんて、きっと全部知ってるはずなんだ。だから、その通りにいった。
「えっと、亜種生産に関することと、キース・イヴィアン、アルセラ・オクスエン、アイル・ハルワールについて。」
アイル・ハルワール。キース・イヴィアンについて調べているうちに、また出てきた名前。すぐ前に似た名前を見たのかと思ったんだけど、そんな名前はなかった。その人について調べてるときにトーイッシュに見つかったの。
『なんでその三人?』
トーイッシュが気になったのは理由なんだよね。
「わからない。なぜか、その三人の名前が浮かんできたの。」
『なにそれぇ?』
私もそう思う。今までそんな事なかったし。
「それだけじゃないの。昨日答えたあの答えだって知らなかったのに出てきたの。」
本当は狼さんに話したかった。屋上で私に昔の事を話してくれたみたいに、今度は私が、って。だけど、あんな思い詰めたような姿を見ると、できなかった。
トーイッシュに言うのをためらう気持ちもあった。よくわからない人にいうのが恐かった。だからって一人で悩んでても仕方ないから、ありのままを伝えた。
『思いついた、ねぇ。』
少しの間、トーイッシュは何も答えなかった。ため息をついてから、いつもとかわらない口調で続けた。
『実在する人間の名前なんて、思いつくようなもんじゃないでしょぉ。学者の言葉なんて尚更じゃん。テレビとかネットで偶然見たの覚えてただけじゃないのぉ?』
トーイッシュの言う通りだと思う。どこかで聞いた、どこかで見た、それをたまたま思い出した。すごく普通の事だと思う。だけど、私はそんなこと、今までない。思い出す、なんてなくって、なにもかも覚えてる。何日、何週間、何年前。あの部屋には時を刻むものがなかったけど、私は正確に覚えてる。正確に思い描ける。何を習ったか、何を言ったか、どう動いたか。生きている間の全てを覚えている。忘れたりしない。そんなことができない。だから、思い出すなんてこともなかった。
人は知らないものに触れると恐怖を覚える、と言った人がいる。その通りだと思う。だけど、今私が感じている恐怖を生み出してるのは、人として当然の性質。私が普通の人間じゃない、って言われているようで否定したかった。
私は忘れることができないだけの、街でみた女の子と同じ、ただの女の子なんだって、誰かに認めて欲しかった。