第一五六話 尋問 -表-
「ぐっ。」
鋭い痛みに目が覚めた。霞みのかかった視界はすぐに晴れ、目の前には男が一人立っていた。ジェイクだ。身体を動かそうとしたが、思うように動かない。柱に縛られているようだ。痛みの出所が右太股であるのもわかった。ジェイクの持つナイフのせいだということも。
『目ぇ覚めたか。』
怒りを含んだ声をぶつけてきた。当然だろうが。腹部にまだ痛みを感じていた。鈍い痛みだ。殴られた時に内にきたようだ。口の中が鉄の味で広がっている。
改めて考えてみると恐ろしい。私と同時に飛び出した部下はもう一人の男に撃たれたのに間違いないだろう。だが、ジェイクは目を離している間に二人を処理し、なお、窮地にいた男を救うべく、私を殴った。かなり距離があるという訳ではない。それでも、短時間でそれだけできるとはな。
「化け物め。」
ただの感想だ。人間業でない、という程でもないが、この状況でそれだけこなした男への評価だ。
ただし、この評価はお気に召さなかったようだ。表情が若干歪んだ。見た目にはそこまで変わらないが、かなり機嫌を損ねたらしい。
『余計な事話すな。聞いた事だけ答えろ。』
銃口が近づく。仕方なく口を閉ざす事にした。
『誰に命令された?』
当然の質問ならば、答えも至極当然。
「さあな。それより、追っ手は他にもいるが、いいのか?」
『誰に命令された?』
録音した音声を再生するかのように全く同じ音で返す。なるほど、以前とは違うか。
「知らん。」
『そうか。』
今度は随分低い声で冷たく言い放った。私は身構えた。恐らく次に来るであろう衝撃に備えるためだ。相手を脅し、情報を得るには、何らかの恐怖が必要だ。彼なら、痛みを与えてくるという考えだ。
だが、予想していた痛みとは違っていた。
目の前に向けられた銃の引き金をなんの躊躇いも見せずに引いた。それと同時に銃口から強烈な光が広がった。瞼を閉じても痛いほどの光。
「〜〜!」
声にならない悲鳴を上げていた。目が痛い。まともに瞼を開けられない。
畳み掛けるように、声が私を動揺させる。
『お前、ゲイル・クロンズだろ?あんたとは一度同じ仕事に就いたよな。直接会った事はないが。』
「よく…覚えているな。」
『同じ仕事についた奴の顔と名前は全部覚えている。それにしても、今は正反対の職についたなんてのは知らなかったがな。』
強烈な光の後遺症か、全く目がきかない。ただ、ジェイクの声からなんの感情も感じない事が恐ろしかった。
それでも、私は何も言わない。それでいい。
『で、まだ言わないのか?』
「ああ。何も知らない。」
ふと、気になる事があった。あと何分だろうか。