第一五四話 強襲 -表-
入り口から離れた位置で車は急停止した。ライトで奥に階段が見えた。
「俺達で食い止める。二人は社長を連れて行ってくれ。」
二人は頷き、後部席に座っている社長をかかえ、奥に見える階段へと向かった。
最初にも言ったが、車は三台用意した。だだし、内一台は告別式会場から会見場へ、ではなく、逆の会見場から告別式会場のルートを通らせている。囮じゃなく、襲撃時の援軍だな。ちゃんとここにくる前に要請しといた。もうすぐ三階上に着く。俺たちが気を引いてる間に、その車で逃げてもらう、という計画だ。
俺とバン。あの時点で三台見えたから、全員で十人程度といったところか。三台とも来るとは思わないが…。なんか罠でも作れりゃいいが、そんな暇もない。
入ってきた方から明かりが近づいてきた。どうやって対処するか…。
−−−−−
「不用意に近づくな。」
明かりが消えた目的の車を、車半分程の距離を空けて停止した。前後に二台。
部下四人は銃を構えたまま、動きの見せない車を包囲し、少しずつその輪を狭めていった。私を含めた残りの四人は後方から周囲を伺っている。
人影のないそれを見るに、逃げたようだ。こんな廃れた建物でも階段ぐらい残っているだろう。大方、応援が来るまで身を潜めておくつもりだろう。車を詮索するのは早々に切り上げて、他の階に移るべきだな。
『開けるぞ。』
身を屈め、部下の一人がドアに手を伸ばした。
突然二発の破裂音が響いた。視界の端にいた部下の一人が崩れ落ちた。隠れていたか。車を盾に姿を探した。同じく後方にいた部下が一人側にやってきたが、もう一人は殺られたらしい。
撃った犯人はすぐに見つかった。だが、銃口を向ける前に別の音に意識を吸い寄せられた。
鈍い音。人を殴った音だ。引き金を引きながら、今度は目線のみ音を追い掛けた。ついさっきまで車を包囲していた部下の一人が膝を折り、崩れかけていた。そして、追い撃ちとばかりに、頭に銃を振り落とされた。
車内から現れた男は無駄な動きを見せず、側にいたもう一人をも餌食にしようと飛び掛かった。反射的に銃口を向けられたかと思うと、その銃の下部に銀色の銃を叩き上げた。部下の持つ銃が手から離れ、二人の手が宙に浮く、かと思った矢先、瞬きをした一瞬の内に、男の銃が頭に振り下ろされていた。有り得ない現象だ。瞬きをする瞬間発せられた爆音を合わせて考えると、一目瞭然だった。振り上げた後、引き金を引き、弾丸を放った反動で真逆の動きを見せたのだ。自分の腕の事を考えていないのか?
瞬間、頭の後ろを風が切った。あまりよそ見をするべきじゃなかったな。もう一人に集中しよう。恐らく今ここには二人のみ。他は社長を連れて逃げている。脚の悪い大人を背負いながらだと他の行動はかなりとりづらい。もう一人、バックアップが必要だ。
ならばまず一人。残りがジェイクとはいえ、一人減るだけでかなり楽になる。
向き直り、銃を構えた。崩れかけた柱に見を隠している男の姿はここからは伺い知れない。このまま撃ち合いもいいが、時間がない。隣にいる部下に手で合図し、懐に手をいれ、触れたものを手に取った。試験管程の閃光弾の頭に触れ、投げ付けた。後ろでは何発も銃声が聞こえた。
地面に触れると強烈な光を放った。同時に柱の裏目掛けて走り出した。光が弱くなり始めた時点で男を見つけた。向こう側には部下が銃を構えようとしている。突然の光にひるんでいるはずの男は平然としており、二丁の銃を前後、私と部下めがけてすでに構えていた。
瞬時に前に飛んだ。足が地面を蹴ったのとほぼ同時に引き金が引かれた。数発放たれた銃弾は一つも当たらずに済んだ。態勢を立て直しながら反撃を繰り出す。
二発目が命中し、男は左肩を抑えてよろけ、柱の影に隠れようとしている。今のうちに仕留める。態勢を崩しているうちに銃を構えながら距離を詰める。隠れている男をもう一度確認し、引き金をひこうとした。瞬間、構えた銃を引っ込めた。ほんの一瞬まで手があった場所に鋭い光が通った。男の持っていた刃の広いナイフが、私の指をかすめていた。危うく一本取られるところだった。
改めて銃を構えた。距離をとって引き金に力を込めた。
だが、引き切る前に腹部に感じた痛みと衝撃が襲った。