第一四八話 旧友の影
“リリリリリッ”
長い間なっていた受信音を止めるべく、キーボードのキーを押した。音が止み、代わりに苛立ちをあらわにした声色で相棒が唸ってきた。
『遅いねぇ。長いこと寝てたのかぁ?』
「構わないだろ。」
訳は全然違うが、そんなことはどうでもいい。
『まぁねぇ。キースの話なんだけどぉ。』
「何かわかったか?」
『ん~、結論から言うと、よくわからないんだよねぇ。』
「ようわからない?」
言うのがめんどくさく、はぐらかしている、という言い方にも聞こえた。詳しく話してもらわないと。
『キース・イヴィアンの名前は技術者としてあってぇ、今は開発主任を務めてるんだよぉ。最近もなんとかって賞とかもらってるんだってぇ。そっちは正直どうでもいいじゃん?でぇ、研究室にあった映像と比べたら、どう見ても同一人物なんだよね。セイテックの技術者がなんでまた生物学者と関わってんのかねぇ?しかも、仕事っぽいしねぇ。』
「日誌にはセイテック社があの施設を融資していた、と書かれていた。キースはその仲介をしていたようだ。どこからか情報を得て、あの施設にいた科学者たちと接触した。」
『ふんふん。でもぉ、やっぱりよくわからないねぇ。どうして技術者がそんなやつに接触してたのかぁ?でも、なにかしてたってのはわかったよぉ。会社から結構な額の金を適当な名目で受け取ってたのもわかった。多分会社から直接じゃなくぅ、キースを介して金を渡してたんだと思う。それで、セイテックに侵入しても見つけ出せなかったんだと、ねぇ。』
相棒の話が事実なら、キースが他との唯一の繋がりになりうる人物、と言うことになる。
『かなり探ったのにぃ、この程度だからぁ、後はキースって奴に直接聞くしかない。』
相棒もかなり疑っているようだ。最後は命令口調になっている。手掛かりがこれしかないんだ。当然だろう。
「…わかった。早速今夜向かう。プランは任せる。」
『了解ぃ。』
明るい調子に戻った。わかりやすくしてくれて助かるよ。返事を返した後、俺が切るよりも先に通信を切った。キーを押そうと伸ばした手を、頭に運び、何度かかいた。キースに会う、か。あまり実感が湧かない。なんというか、夢の中のように現実味がない。キースが関わっている、という事をしっかりと理解できていないのだろうか?聞いたところでお門違いだ、と言われると考えてるのだろうか?…よくわからない。
「何してるんだか。」
独り言が漏れた。どこか異質なそれに何もいだかず、俺は自分の部屋に戻っていった。