第一四七話 仕事前
一通り会場を見てきた。今はアーサー社長とともに告別式の会場に着ている。身体の悪い社長の代わりに秘書が手配を管理している。社長自身は俺たちのいる場所より少し離れた部屋にいる。俺たちのいる部屋は粗末なもので、パイプ机とイスがいくつか置かれている程度。ホワイトボードもあるから、簡単な会議室として使われていたんだろう。
彼の護衛は普段連れている連中がしている。ここでもやはりアウェイに変わりはない。とはいっても、別に力を評価してないわけじゃないし、かなり近くにいるのだから文句はない。告別式が始まれば、秘書の代わりを務めるから、もっと近くで護衛にあたれる。秘書は会には出席しないらしい。どうしても離せない仕事を任せられているらしい。秘書がいない間、俺とバンが彼の代わり、という訳だ。それに普段から付いているガードをあわせれば、二桁にはいかないものの、結構な人数になる。十分かどうかは分からないが、悪くない状態だろう。
会場を回ったが、気になる点はいくつかあるものの、決定的なものが見つけられなかった。全部対応するにはさすがに手が回らない。なんとか絞りたいんだがな。そううまくいけば人なんて殺されないか。
『セン。』
「なにかわかったか?」
情報屋ザイレイからの通信。探ってもらってたが、何か得られたろうか。
『具体的な動きは得られない。組織内部で情報を得たのか。会場内の人員名簿等、関連のあり得るものを一通り見たが、目につくものをなかった。』
「そうか。」
収穫なしか。
『悪いな。だが、料金なしでいい。』
「そりゃ助かる。」
最後の言い方がずいぶん気落ちした言い方だったから、らしくないなと吹き出しそうななったが、こらえることにした。少し漏れたようにも思えたが。
『はっきりした情報なしッスか。』
内容のわりに声に落胆の色が見えなかった。
「まぁ、想定内だろ。」
バンもそう思っているんだろう。むしろ、普段の仕事はそういったものの方が多いしな。情報を得られるような場合もあるが、そういった場合はかなり特別だ。今の仕事(捜索)の方が特別か。紙パックに注がれていたコーヒーを一口口に含んだ。
『となると、確信があったわけじゃないんですかね?』
「そうなのかもな。だが、内部情報とかの線も消えないけどな。」
当然の疑問。こうして俺たちをつかせた理由。考えてた案はハズレなんだろうか。
「とにかく、俺たちは目の付けている場所に気を配って、来るものだとして待ち構えるしかないさ。考えてもしかたない。これ以上詮索するのも気が引けてくるしな。」
最後のは自分に言い聞かせるように言った。考え続けてるのが少し疲れた。だから止めろ、と。バンもこれ以上は話さなかった。構造図のデータでホログラムを作り、もう一度、見直し始めた。