第一四五話 遅めの朝
『そうか。目的の場所ではなかったか。』
「ああ。だが別に文句は言わない。むしろ、情報を渡してくれるのがえらく遅かった事に文句があるがな。相棒が内容にも文句いってたが。」
『向こうの隠ぺいも固くてね。渡せた程度しか得られなかったんだ。こちらもやっと尻尾をつかんだところだったんだが…。また情報を得られ次第渡そう。今日は依頼がない。身体を休めてくれ。』
通信の受信音に起こされ、今日の件の報告をした。向こうとしても予想外だったらしく、素直に謝罪してきた。謝罪されたところでなんの意味もないが、そんな憤りをぶつけたところで、それこそ虚しくなるだけだ。出そうとした言葉を飲み込んで、切れるのを待った。
コンピュータ室に来るまでに食堂を覗いたが、彼女の姿がなかった。寝ているのだろうか。無理もないか。あんなことがあったのだし、普通に起きてこられるのも、それはそれでおかしいか。そう考えると、自然と口の端が釣り上った。こんなことが普通になっている俺もおかしいのか。
腹が減っているわけではないが、何か食うことにするか。そう思い、部屋を出ようとした。ドアノブを掴んだ時、後ろでまた受信音が響いた。手を離し、またモニターの前に戻り、席に着いた。
『今連絡来たのぉ?』
「ああ。ちゃんと言っておいたぞ。もっとちゃんと情報送れとな。今日は仕事はないそうだ。」
『ふーん。それでぇ、持ち帰ったので何か情報あったぁ?』
投げやりな言い方。期待していない、という考えがあからさまに出ていた。
「目ぼしいものはないな。あの場が関係ないということぐらいだ。」
『やっぱりぃ。あいつらちゃんと探してんのかねぇ。』
少し苛立ちを含んでいるのがわかる。さっきよりはあからさまではない。
「少し探ってほしい人物がいるんだが、キース・イヴィアンという男だ。」
『キース・イヴィアン?…ああ、あの頬のこけたおっさん。』
知っているようだ。テレビででも見たのだろうか。とにかく、わかっているのなら話が早い。
「あの研究所に出入りしていたらしい。他の研究機関と繋がっている可能性があるんだ。手掛かりとしては、せいぜいこれくらいだ。」
『わかったよぉ。何かわかったら連絡するよぉ。んじゃ。』
そう言い終わるかどうかの瀬戸際で、通信を切った。今度こそ何か食いに行こう。
部屋を出ると、さっき感じなかった匂いが広がっていた。食堂に向かうと、彼女が食事を作っていたところだった。部屋に入っている間に起きたのか。ちょうどいい時に作ってくれていた。
『おはよう。少し遅いけど朝食作ってる。もう少し待って。』
「ああ、助かるよ。」
席に座り待つことにした。テレビでもつけよう。リモコンをとり、電源を点けた。ちょうど定時のニュースをしていたところだ。内容は、ああ、星天祭があるのか。その話で持ちきりだった。
『星天祭って十年に一度のお祭りだよね。狼さんは行った事あるの?』
食事を作り終え、テーブルへと運びながらテレビの話をする。
「まぁな。十年生きてたら誰だって一度はあるようなものだ。」
『そうなんだ。』
そうか。彼女はまだ普通ではないんだったな。
「すぐに普通になれるさ。」
スプーンをとり、食事に手をつけることにした。