第一四三話 態度を変えて
護衛を俺達に依頼してきた。普段から護衛を雇ってるだろうが、さらに俺達もつける、となると、何か情報を得ているんだろうか。ほぼ確実に行動があると踏んでいる。そう考えるのが自然だろ?もしかしたら、俺達の腕を確かめるつもりなのかも…。
『最近多いわね。考え込むの。』
包帯を巻き直し終わり、背を手で押された。確かにそうなのかもな。
「いろいろあるんだよ。包帯もういらねんじゃねぇか?」
イスを回し、ナーシャの方を向き直ると、溜め息をついて言う。
『今より悪くなられちゃ、私の仕事が増えるでしょうが。つっかえがあるくらいで丁度いいのよ。』
人をガキみたいに。つっても、こういう事に関しては頭が上がらないんだ。黙って従う事にするか。でないと、いざ見つかった時がやっかいだ。
『…何考えたの?』
「何も。」
俺の顔を見ながら、目を細め、睨んでいる。顔に出たのか?参ったな。
『ジェイク。』
「ん?」
席を立ち、部屋を出ようとドアに手をかけた時、ナーシャが声をかけてきた。
『明日、少し遅れるけど、パーティに行けそう。』
「…そうか。あいつらも喜ぶよ。」
忘れてた訳ではないが、改めて気がついた。この仕事が今日でよかった。
日ごろ、一緒にいられる時間があまりない俺達にとって、誕生日は重要だ。クリスマスなんかの行事の日はほとんど仕事が入っちまう。だから、せめて誕生日だけでも家族全員で祝おう。そう、俺が決めた。基本的には家族だけと言ってたんだが、バンやらナーシャやら、たまにウチに顔を出してきた奴が、参加するようになった。まぁ、祝う人が多いのはいい事だ。ちゃんとプレゼントも用意してくれるしな。
『行きましょう、先輩。』
部屋の外で待ってくれてたバンとともに下りて行った。
依頼内容での護衛は夜の告別式の前から。それまでは、奴の情報収集。と言う話だったんだが、ターシェの事もあるんだろう、できるだけ長くつくようにした。これから、まず告別式式場、会見先を回って、警備体制や会場の見回りを確認し、その後から護衛につくという話にした。
『つまり、私は何を調べて欲しいと言いたい?』
「アーサー社長が掴んでるだろう情報が欲しいんだ。誰がどんな手で仕掛けるか。わかるなら知っておきたいからな。」
情報を掴んでるのが確実だ、とは言い切れる訳じゃないが、やっぱし、何かしら根拠があるはずだ。雇い主を詮索しているようで気が引けるが、それで防げるなら、しない訳にはいかない。
バンの運転する車でザイレイと連絡を取り、情報を求めたんだが、追加料金をせびられた。前に渡した情報分はまだのはずだ、と言い返したんだが、別件では適応外だときっぱり答えられた。きっちりしてると言うか、がめついと言うか…。仕方ないから、取りあえずつけておく事で請け合わせれたが、ザイレイの性分だと、忘れないだろな。面倒臭い。
会場までは少し時間がある。レインに遅くなる、と連絡しておこうか。心配させないよう、明日は大丈夫と書いておこう。