第一四二話 護衛任務
閉じた空間に銃声が響いた。悪くない。むしろしっくりくるな。的を見ても、悪くない。ランタンから受け取ったものを試していたんだが、安心した。
先輩が使っていた二丁のハンドガン。他のものと比べて少し重く、スライドの部分が太くなっている、銀色の銃だ。
素手、というか格闘を主体にしてたが、別に銃を使っていなかった訳じゃないし、実践で使えないようなレベルという訳でもない。実際使ってるしな。ただ、銃撃戦よりも近接戦が得意だったから優先していただけだ。
『ここにいたんスか、先輩。』
切り上げようと、片付けている最中、バンが扉を開けた。そういや、どこにいるか残さずにきたんだと気付いて謝った。
「で、どうかしたのか?」
わざわざ俺を捜してたみたいだし、何かあったのか?情報集めに行くのに捜す必要はないしな。デスクで待っててくれればいいんだしな。
『ボスが呼んでます。なんでも、仕事だとか。』
「仕事?」
何だ?今俺達がしてること把握してるはずなのに、何考えてるんだ?仕事を掛け持ちさせるような人間じゃないが、考えてる事はよく分からない。行けば分かるか。
「分かった、すぐ行く。」
エレベータに乗り、ボスの部屋に向かう。バンもこの呼び出しを奇妙に思ってるらしく、持ち掛けてきたが、俺にも分からないのだし、ちゃんとした答えは返せなかった。
「失礼します。」
ノックに返事を受け、扉を開くと、ボス以外に誰かが座っていた。
『遅かったな。人を待たせるもんじゃない、とよく言ってるだろ。…お待たせして申し訳ない。』
『構いませんよ。急に押しかけたのはこちらなんですし。』
誰が座っているかの見当はすぐについた。ここ数日で何度もあった秘書と目が合ったら当然だよな。
「アーサー様…。捜索の進展がでず、申し訳ありません。」
妹の捜索を依頼したアーサー社長、その人だった。捜索どころか、さらに被害を拡げれ事になっていない。本当に奴が憎い。
『貴方のご友人も被害にあったと聞きました。気を落とさないでください。私は貴方を信じてますよ。』
『とりあえず二人とも座れ。早速仕事の話に入ろう。』
扉の前に突っ立ってた俺たちを呼び、俺たちは席に着いた。アーサー社長がいて、仕事の話となると、捜索について、何かプランを変えるのだろうか?
『それでは、私からお話させて頂きます。』
社長の後方に一人立っている秘書が口を開いた。彼が全て話してくれるようだ。
『今日の夜八時より、元社長の告別式、その後、アーサー様の社長就任会見を行います。その際に、お二人にアーサー様の護衛をお願いしたいのです。』
告別式。社長が亡くなったのだから、大々的に行うのだろう。その後で新社長の就任会見。俺たちに依頼する意図がわかったように思う。
「誘拐したまま何の要求もないのは明らかに不自然。大々的な場で奴が何らかの接触をみせる可能性もある。」
秘書は一度頷き、話を続けた。
『その通りです。彼女を人質にアーサー様の命を狙ってくるかもしれません。どういった方法でかは予想できませんが、接触する可能性は大いに有り得ると判断しました。』
『実は他にも問題があってね。あまり公にはできないが、私が社長として就任することを好んでいない者たちもいてね。直接的な行動をとってくるとは言い切れないんだが、ここ最近不穏な動きをとっているものもいるようなんだ。そういうことも含めて護衛を頼みたいんだ。』
社長がそう繋いだ。上に立とうとする人間だ。自分の会社といえど、敵は少なからずいるもんだ。むしろ、いないような人間に会ったことがない。どんなに人柄がよくても、立場や状況で妬むことだってあるんだし。
『そういうことだ。情報収集の方は代りを出しておく。この件はお前たちに頼めるな?』
ボスがわざわざ聞いてくるが、答えは決まってるだろう。
「もちろん。任せてください。」