第一四一話 懐かしい記憶
キース。俺の旧友。カードキーのロゴを見てすぐに社名、セイテックだとわかった理由だ。キースとは大学時代に出会ってから、就職しても交流のあった友人だ。あいつがその会社にいたからこそ、ロゴを見ただけでわかった。その名がここに書かれていた。その名に目が少しの間縛られていたが、目を通していただけで、内容が頭に入っていなかったため、少し前から読み直した。
”我々の研究に興味があるという若者が表れた。キース・イヴィアンと名乗った彼は、融資するからもっといい環境で研究を進めないかと話を持ちかけてきた。しかも、機密性を保証すとも言ってきた。正直なところ、今の研究は息詰っていた。進展するためには金もそうだが、これ以上は法に触れるからであった。全員の意見を聞く必要があるが、私の考えは決まっている。おそらくほとんどは私と同意見だろう。今後が楽しみである。”
あの男を支援していたのはキースだったようだ。厳密にはやはりセイテックが関わっていたのだろうか。偽装していた訳ではなかった事は驚いたが、それ以上にキースが関わっていたことがかなりショックだった。
キースとは大学で知り合ったが、俺は文系、あいつは理系、部活動も異なっていた俺たちが出会ったのは…今思い出しても笑みがこぼれる。妻だ。いや、元妻だと言った方がいいんだろうな。彼女とあいつは中、高どちらからかは忘れたが、それなりに親しかったらしい。彼女は俺と同じ学科で、何人かの友人グループの一人だった。テスト前に図書館で集まって勉強していた時だ。同じように図書館に勉強しに来たあいつが彼女を見つけて声をかけてきた時だ。あいさつ程度だったんだが、何故か俺の方を一瞬睨んでいた。後で本人に聞いた話だが、彼女にそれなりに恋心があったらしい。それで、隣に座っていた俺に対して、何か理由があったわけではないらしいが、睨んだらしい。大学時代中に彼女と付き合い始めた位からは仲は良くなっていった。初めは少し毛嫌いされていたようだが、話していると、気が合うところが多く、そういった感情はなくなっていった。就職後もたまに会って酒を一緒に飲んだりするような仲だった。あの頃は楽しかったな。
ここにキースの名が出るということは一体どういうことなのだろうか。機械系のあいつがセンテックに就職していたのは本人から聞いた。もちろん技術者として。なのに、ここであいつの名前が出るのはどうしても腑に落ちない。偽名か?そう考えると、センテック自体が融資している訳でもないのかもしれないな。それにしても、いくらセンテックと名乗るためだとしても、技術者の名前など使うだろうか。だとしたら本人か?断定はできないが、その方がまだ信じられるか。
日誌内は移動後の研究について書いているが、あまり情報になりそうなのはなかった。研究にのみ没頭しており、他の記載がほとんど見られない。作られた実験体、その後の経過、さらなる性能の向上などなど。あの場にいた五体までに何十体もの実験体を生み出していたようだ。文字の羅列だけではあまり何も考えてはなかったんだが、改めて思うとかなり残酷な事である。
手掛かりがあったと自信を持って言える事ではないが、やはりキースの事が気になる。セイテックがと言うべきなのかもしれないが、身近であったためでもあるだろう。相棒に少しあらってもらおうか。今日はもう休もう。なれない事はするべきじゃないな。電源を落とし、席を立った。