第一三八話 待ち合わせて
約三か月の間更新せず、申し訳ないです。周辺の状況が落ち着いてきたので、ペースを上げて書いていきたいと思っています。読んでくださってる方、こんな作者ですが、よければこれからもこの小説を読んでいってくださるとうれしいです。
「まだかな。」
私しかいないのに言葉がこぼれた。ちょっと待ちくたびれたから。ほんの少しだけ。
あの施設から少し離れたところにある古びたビル。先に出てこれた私が待ってる集合場所。改装の途中だったみたいで、外壁と柱以外なんにもない。ビニールとか何かの板が散乱してるくらい。すごく寂しい場所。トーイッシュも自分のすること終わったから、って寝ちゃったみたい。返事を返してくれない。呼び掛けても返事してくれないと、余計に寂しさが増したから、声かけるのすぐに止めちゃった。
元に戻るにはどれくらいかかるんだろう?すぐには治らないよね?元はどんな顔なんだろ?…もう全部うまくいってるように考えてた。たぶん、私はちゃんとできたから、そんな気になったんだと思う。気が早いけど、疑ったりはしなかった。
“カツッ”
考え込んでたせいか、人影が目の前に来るまで足音に気がつかなかった。立ち止まった大きな影を見上げる。狼さん。期待が外れて、うかない顔をしてた。初めて喜ぶ顔が見れるんじゃないかな、って思ってたのに…。
「…失敗、したの?」
恐る恐る聞いてみた。狼さんの返事を聞くのが少し恐かった。ゆっくりと、口を開いた。
『成功したが、ここじゃなかった。』
「そう。…」
目線を落とした。ケガをしてないか気になったし、なぜか、それ以上目を合わせられなかった。
「ケガ…してる。」
右腕の肩より少し下の部分の服が破れてた。少し暗いから、どれくらいの傷か、はっきりわからない。治療してあげたくても、ここに道具がないから出来そうにない。
『かすり傷だ。気にしないでいい。』
ちゃんと診たかったけど、道具もなかったし、そう言われると諦めるしかなかった。
狼さんは目の前の壁に寄り掛かり、腰を下ろした。少しの間、沈黙。なんていったらわからなかった。
『ありがとう。』
「え?」
狼さんが呟やいた言葉はちゃんと聞こえたよ?ただ、なにに言ってるのかわからなかっただけ。
『お前がいなかったら、侵入なんてできなかった。』
「…でも、失敗だったんでしょ?」
結局はダメだったんだもの。お礼なんて−
『失敗ではない。当てが外れただけだ。得られたものもあるしな。』
「何?」
そういいながら、服のポケットからなにか取り出した。赤い汚れのついたケースには一枚のディスクが入ってた。
『まず、あの施設は目的のものではなかったが、遺伝子操作をしていたのは事実だ。それも、何年も前から。』
そうだよね。全然関係ない場所だったら、狼さんがしてきた事の報酬にならないもん。外れた時点で報酬にならないとも思ったけど、その考えをやめた。
『成果も出していた。そんな研究所でも、この身体ほどの技術に達していなかった。』
言いたい事が分かった。
「狼さんがその身体にされたのがだいたい五年前。その時にそんな技術があるってことは、かなり前から進めてたってことだね。」
狼さんは小さく頷いた。
『かなりの設備を必要とするだろうから、今だに続いているとしたら、かなりの財力があることになる。もう止めていたとしても、当時の資料を見れば、ある程度には絞れるはずだ。』
私は中に入ってないから、どんな感じかわからないけど、確かにそうだと思った。
『それと、これは研究員から受け取ったものだ。まだ中を見てはいないから何とも言えないが、情報があるかもしれない。』
そうやって、これからの事を話してくれた。筋は通ってた話だったんだけど、どこか違和感を感じた。