第十三話 始まり
奴を追って資料室に入ったのが、一時間ほど前。その時には奴の姿はなかった。逃げ道のない部屋で…消えた。部屋を捜索するチームと、奴の仲間を捜すチームに分けて行動させたが、まだどっちも成果なしだ。
「どこ行きやがったんだよ!」
護衛に失敗して、その上取り逃がしたりなんかできるか!頭にきて壁を思いっきり蹴と飛ばした。すると、その壁が動くじゃねぇか!
「通路?見取図にはねぇぞ…。」
雇い主からのデータにはそんなものなかった。なら、この奥か!隠れられんのはここぐれぇだからな!何人か連れて入ったときだ。
“ドッカーン”
奥から爆発音だ!逃げる気だ!させねぇぞ!俺たちは走って奥へと進んだ。真っ白な部屋に入ったときにはもう奴は飛び降りていた。この距離じゃあたらねぇ。
「くそぉぉぉ!」
拳から血が出るほど思いっきり壁を殴った。
目を開けたら、私たちは空を飛んでた。上も下も、左も右も、みーんな光ってた。すごく綺麗。
『怖くないか?』
「うん!」
…普通、怖がるだろう。ビルの四十階から飛び降りたんだからな…。暴れるよりはいいが…。しかも、本当に嬉しいんだろうな。俺にしがみついてる手を緩めていやがる。俺が支えないと落ちてしまいそうだ。
「ちゃんと掴んでろ。落ちるぞ。」
『あっ、ごめんなさい。』
嬉しくって力いれるの忘れてた。
「狼さん。名前は?」
『…シンだ。あと、二度と“狼さん”って呼ぶな。』
カゴからとうとう飛び出した小鳥の物語がこうして始まった。