第一二九話 二首-待機
後九分か。それまで俺は静かに待っていなければならない。何もできないとは、…もどかしな。
今までは相棒がハッキングをしてサポートしてくれていたため、こんな身体でもある程度は侵入が出来た。映像や音声、利用できるもの全てで。だが、今回はギリギリまでサポートを受けられない。
三時きっかりに相棒が全てのセキュリティを一時的に停止させる。カメラ、通信機も全てだ。彼らが異常に気づき、研究室に連絡が入られるまでに最短で約五分と想定いる。その五分で目的地にいかなければならない。全力で移動すればなんとか、と言うところだろうか。相棒はセキュリティを停止した後、研究室への訪問履歴から、映像と音声を取り出して、その…なんだ、中にいる人物に扉を開けさせる。扉が開く前にはそこに辿り着き、開いた瞬間に研究室に駆け込む。中に入りさえすればこっちのものだ。この騒ぎで警備が動くから、彼女はその間に逃げる。計画の概要はこんな感じだ。
この計画には警備員の配置は推測でしか入っていない。いつもはこの警備の配置も情報として受け取るらしいが…、なかった以上、仕方ないな。想定はかなり厳重だろう、としている。人の目がある外にはあまり人は置けないだろうから、中に重点的になるはずであり、なにより、高度な技術があるなら、少ないはずがない。
彼女は大丈夫だ。必要なものは全て渡した。するべき事をわかっているし、俺が警備を引き付ければ、ちゃんと逃げられる。だから、俺は失敗しなければいい。ただ、それだけだ。
本当にここに俺の身体を変えた人間がいるんだろうか。いや、少なくとも、彼女はそう信じているんだから、俺も信じるべきだ。一体、どんな人間なんだろうか。どこでこんな技術を学んでいたのだろうか。内容によっては、まだ人間に戻るべきでないのかもしれない。
…それでも構わない。今まで奪ってきた命も少しは報われる。また業を増やす事になるかもしれないが、それで俺のような化け物が生まれなくなるなら。
後七分か。少しずつ近づいているその時を、静かに待つことにした。