第一二八話 一首-忍ぶ
午前二時四十八分。私は弱い光を目の前に、薄暗い影の中にいた。目的の建物からの光があまり強くなく、人がいるのか少し怪しいくらい。あの中に狼さんは潜り込もうとしてる。三時ぴったりに作戦が始まる、その時まで待機。三時までに私はこの先にある小屋の中のパネルに、トーイッシュからった小さい機械をつけないといけない。後、十一分になった。そろそろ行くよ。
ここの建物は長方形の場所にだいたい三分のニ位を占めてて、角に当たる二辺はビルに接してる。残りのL字型の長い方の中央に小屋があるの。ただし、建物に向かい合う方向に一人と、反対側に一人見張りがいる。ここからだと、建物の方にいる人は見えないんだけど、扉があるのが建物側だから絶対にいる、ってトーイッシュが言ってた。反対側の−私の前にいる−人ははしごの前に立ってるのが見えた。ライト持ってるからすぐわかったの。この二人に気づかれないように小屋に入らないといけない。
小屋に入るための通風孔は屋上にあるの。だから、まずは屋上に行くのが目的。ただ、はしごは使えないから、別の方法じゃないと。…と、言うか、始めからそのつもりなんだけどね。
上に上がる方法だけど、その前にまず誰もいない小屋の側面に行かないといけない。ここで一時間位待機してたんだけど、全然動かないみたいだから、トーイッシュが言うには、気を逸らして、その間に行かないといけない。その準備もしたし、これからまさに始めるって感じ。
“カーン”
少し離れたところで金属の甲高い音がした。ライトがその方向に向いた。今だ!態勢を低くして走った。音があんまり鳴らないように気をつけて。
側面に着いた。あんまり壁から離れると気づかれるかも知れないらしいから、ぴったり壁に張り付く。気づかれて…ないみたい。よかった。
『ザー…うまくいってるぅ?』
イヤホンからトーイッシュの声がした。無線で連絡できるようにしてるんだぁ。
「うん、順調。」
『ならいいよぉ。時間に余裕はないからきびきびねぇ。』
それだけなんだ。わかってるよ。
腰についてるホルダーの中から、細長いつつを取り出した。ホルダーに十分入るから、鞄はいらなかったんだぁ。取り出したのは手の平から少しはみ出すくらいの小ささのもの。こんなに小さいのが、これから四メートルくらいの高さを上るのに大切だなんてね。
そのつつの曲面の真ん中にある穴に、手首に巻いてる腕時計の下の突起に挿した。“カチッ”って、音がしてすぐ時計の数字が動いた。さっき見た時より二増えてた。順調、順調。時計からつつを話すとつつからワイヤーが出てきた。しっかり繋がってるのを確認して、壁に当てた。手を離してみると、つつは壁に張り付いてる。落ちそうな感じはない。うまくいきそう。丸い端にあるボタンを押した。
つつは上り出した。静かなくせに速かった。つつの両端がタイヤになってるから、ワイヤーを巻き込んだりしないんだ。あっというまに上りきって見えなくなっちゃった。それじゃ、上りますか。壁に足の裏をつけて横になって、腕時計の付けた腕を少し上に挙げた。それから、腕時計のボタンを押した。
ゆっくりと、だけどしっかりとワイヤーが巻かれていく。壁を床みたいに歩いていくのは不思議な気分だけど、滑りにくいクツのおかげで全然こわくなかった。むしろ、楽しかった。それでも、普通に歩いてるときと比べたらやっぱり疲れるみたいで、少し辛くなったくらいに上に着いた。つつからワイヤーを外したら、また一つ数字が増えた。後九分。絶対大丈夫。