第一二七話 将来
『ランタン君の所行ってたんだ。』
食器を洗う俺の後ろで明後日の準備をしながらレインが言った。
「悪いな。行かなかったらみんなと飯食えたのによ。」
『いいよ。明後日さえ遅くならなかったらいいから。』
ちょうど真後ろにいるようなもんだから、首を少し捻っただけじゃ表情が見えないが、声から怒ってないのがわかる。それならいいんだ。
「わかってるよ。それより、準備は進んでるのか?」
『あんまり、かな。あの娘のいないときにしかできないし、今年は忙しいのが多いから。それでも、明後日までに仕上げるよ。』
自分だって忙しいだろ。無理するなよ。
「俺がやっとくから、たまには早く休めよ。いつも遅くまで起きてるんだろ?」
洗い物を終え、食卓に座り、レインがしている事と同じ事をし始めた。
『みんな心配しすぎよ。私は大丈夫。それにしたいからしてるのよ。』
「そうか…。」
これ以上言うのは逆に気を使わせるな。話題を変えるか。
「そういやレインは高校出たらどうするか、決まったのか?」
まだ時間はあるが、そろそろそんな時期だ。父親なんだから、ちゃんと知っとかないとな。
『うん…大学、行きたいなって思ってるんだ。』
驚いた。それ以上に嬉しかった。レインは勉強できるんだし、別に驚くようなことじゃないかもしれない。でも、ウチはこういう家庭たからな。正直、すぐにでも働く、なんて言い出すんじゃないかってひやひやしてた。
『何?そんな顔して。私が働くとか言い出すと思ったの?』
顔に出たみたいだな。
「図星だよ。」
『ちょっとは隠してよ。…始めはね、そうしようかって考えたんだぁ。』
手を止めて、ほんの少し間を開けてから話しだした。俺も手を止めて話を聞いた。
『だけどね、思ったの。私が働くのをみんながみたらどう思うかなって。私がどう言っても、きっと無理してるんじゃないか、って感じるんじゃないか。だってみんな私の夢知ってるもんね。』
そう言ったレインの言葉を聞いて思い出した。前にみんなで将来の夢を話したときがあったが、あのまま、なんだな。
「そうだな。」
相槌だけ打つ。話の邪魔はしたくないからな。その言葉を待っていたかのように、再び口を開いた。
『みんなに気を使わせたくなんかないから、だったら、私ががんばってどこかの大学の特待生になって負担を減らした方がいいんじゃないかなって、ジェイク見ててそう思った。』
「おいおい、なんだよそれ。」
俺見てそう思ったって、気ぃ使わせた事なんて…、あったのか。
『自分は無理してないつもりでも、周りから見たらそう見える事もあるの。なにより、何も考慮しないでどうしたいか考えてみたら、私は大学に行きたい、って思ったから、どこか無理してたみたい。』
そうなのか。自分だと気づかないもんだな。他の誰かだったらすぐわかるのによ。
『だから、ジェイクももっと自由にしたらいいよ。あんまり私たちに気を使わなくていいから。この家の主なんだし、威張っていいんだよ?』
「?」
手を再度動かし始めたレインを横目にしながら答えた。
『さっ、後は部屋でしよっと。』
俺なんてどうでもいい、って感じで突然立ち上がって自分の部屋に向かっていった。…まあいいか、俺ももう少ししたら部屋に戻ろう。