表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
123/173

第一二三話 引き継ぐもの

「これで最後か?」


最後だと思う荷物をランタンと共に車に乗せ終え、確認をする。結構な重さのあるものなんて、結局たかが知れた数しかなかったな。それだけなら、一時間もかからなかった。


『ああ、後は母ちゃんと二人で出来るから帰っていいよ?』


そうか。んじゃ、帰るか…。と、口にしようとして、大事な事に気がついた。同時に自分に呆れた。


ランタンの方に体を向き直し、溜め息混じりに言った。


「…バイト代は?」


『あ゛。』


随分低い声と共に、家へ向かおうとしていたランタンの脚が止まった。なんだ?ホントに忘れてたのか?いや、これも演技か?しらばっくれんの得意だからな。


『なんだよ、その目は?本当に忘れてたんだからな。そもそも、ちゃんとあるんだし。』


顔に出たらしく、俺の言いたい事がバレバレだ。でも、本当にバイト代があるらしい。これには少し驚いたな。


「へぇ。じゃあ、それをもらえるか?」


『家ん中だから取りに来てくれよ。』


そう言って駆け出して行くランタン。顔を見せないようにふさいでいたように見えたが…気のせいか。その背中を静かに追いかけた。


再び姿を見つけたとき、ランタンは自分の部屋にいた。天井から階段を下ろし、天井裏に上ろうとしていたところだった。


「おいおい、そんな所に片付けてたもんなのか?いらないもん押し付ける気じゃねぇだろな。」


本当にそんなつもりなら叩き返すからな、と若干声を強くしながら言う。が、薄暗い隙間からは、ランタンが何か持ってくるまで、何も聞こえなかった。


抱えて下りて来たのは黒いトランクだった。見覚えがある。この中にあるものも知っている。


「これを…か?」


まだ俺をおちょくっているのか、とか疑っていた訳じゃない。顔を見りゃわかるさ。ただ、それはランタンがどうしても自分が持っていたいと言っていたものだ。先輩の身につけていたものだから、と。


『ああ。新しい家に持ってくのも気が退けるっつーか。それに使ってやれないままじゃ、父ちゃんにも悪いしな。ジェイクなら使えんだろ?だからさ、貰ってくれ。』


拒む理由なんてない。ないんだが…。


「本当にいいのか?」


『男に二言はねぇよ。』


そういう眼はしっかりと俺を見ていた。その眼を見れば十分だった。聞き直したりするべきじゃなかったな、なんて少し反省させられた。


「わかった。ありがたく使わせてもらうよ。」


『そういやさ、聞いてないけど、…使えるのか?』


お前な…。今言う事じゃねぇだろ。トランクを受け取りながら、顔でそう返した。使い方なら大丈夫さ。この眼で何度も見てきたんだ。使いこなしてみせるさ。


『さて、バイト代も渡したし、母ちゃんが帰って来る前に帰った帰った。』


そう言われて、やっと気がついた。奥さんがいないときに運んでたのは、負担をかけさせないためじゃなくて、これを見せないためだったのか。ランタンの優しさ、か。気にしなくてもあの人なら大丈夫だ、とは言えないか…。


「そうだな。そろそろ帰るか。ありがとな。」


『それはこっちのセリフだろ?』


鼻で笑って俺に返す。


「違いねぇな。」


左手にトランクを下げ、軽く右腕を上げて、ランタンの家を後にした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ