第一二一話 先輩
この仕事を始める時、俺はある人の下についた。ゴードン・シュワルツ。家庭を持ちながらも、こんな危険な仕事をしていた。理由を尋ねると、こう返された。
『守るもんあるから、命張れるんだよ。』
その時の俺にはいまいちピンとこなかったが、こうしてレイン達を引き取った今なら、わかるような気がする。先輩はそんな人だった。ちょっとキザな言葉をよく使っていた。ターシェに言ったあの言葉とか…。ユーモアのある人で、他人を笑わせるのが大好きだった。
一人前と認められ、個別で仕事を請けるようになってすぐだった。俺はどうも他人の死に目に会えないらしい。連絡を受けた時には遅かった。
先輩は亡くなった。妻子を残して。
先輩が霊安室で横になってるのを見ると、兄貴を思い出した。なんで、こう…いい人から死んでいくんだろうか、と誰でもない何かを怨んだ。奥さんはショックは受けていたようだが、比較的落ち着いていた。取り乱したり、泣き崩れたりはしなかった。
『あの人がこの仕事を続けると言った日から、こんな日がくるんじゃないか、と覚悟していました。』
少し眼を潤ませながら、しっかりとそう言った。強い人だ。先輩はその強さに惚れた、なんて言ってたっけ。息子は中学に入ったばかりの歳でかなりショックを受けていた。当時はよく家により、話をしていた。時間はかかったが、なんとか立ち直った。
それからは月に一度位は顔を出していたが、今の家に着てからはあまり顔を出せていない。今回は半年ぶりくらいか…。
メールの送り主はランタン・シュワルツ。先輩の息子だ。内容はたった一言。
“ちょっと来てくれ。”
久しぶりのメールがそんだけってどういうつもりなんだか…。
アイツらしいと言えばそれで終わるんだがな。
ボスの所に向かうとすでにバンが報告を終えていた。その足で、サポートの方に顔を出し、トーイッシュ・エイデンのデータを受け取った。ザイレイから貰っても良かったんだが、まぁ、頼みすぎて肝心な時に働いてもらえない、なんてのは困るからな。こっちで出来ることは済ましといた方が無難…ってな訳だ。
『じゃあ、これ送って送ッスね。』
少し残る、と言っていたバンを残して俺は先に社を後にした。今日はランタンに顔を出したら帰ろう。明日は大事な日だから、準備がある。しておきたい事がたくさんあるんだから、大した用じゃなければさっさと終えてしまおう。