第一一六話 接触
あー、面倒臭い、面倒臭い。なんでこっちにいないといけないんだよ。そりゃあ、あんなもん使っちまったんだし、仕方ないったらそこまでなんだけどな。あんのバカ犬、帰ったらまたぶん殴ってやろうか。
昼前に刑事がやって来て、いろいろ聞いてくんだよ。
そりゃ、あのじいさんの作ったのが始まりなんだしな。
じいさんと親交の深い奴知らないか、なんて聞かれた。はーい、俺がやりました!って、叫んでやりたかったな。我慢して、適当に何人か言ってやった。俺が容疑者に入る訳なかった。当時まだガキだったし、そんな高度なプログラム、作れる訳ねぇ、って思うわな。残念ながら俺が作ったんだよ。努力の賜物だよ。
当分ここに来るだろうから、向こうには帰れそうにないなぁ。まぁ、遠隔でも大概動かせるからなんとかなるでしょ。さてと、そろそろ晩飯考えないとなぁ。何買ってこよ。
”コンコン”
財布を取って外に出ようとしたまさにそのときだ。何かしようとすると決まってジャマが入る。また刑事か?適当に答えて返すことにしよ。
「誰ですかぁ?」
静かになった扉を開けると、男が二人立っていた。刑事だと思っていたが、違う。ジェイク・アーベン。セフィーを探している奴。意外と早かったなぁ。もっとかかるもんだと思ってたのに。
『突然すいません。我々こういう者なんですが、少しお聞きしたいことがありまして…。』
そういって、名刺を渡された。まぁ見なくてもあんたらのことは知ってるよ。もう一人がバン・ヘルゼンだってことも。
「はぁ。聞きたいことってのは、やっぱりあの…祖父のことですかぁ?」
刑事にさんざん聞かれてるんだから、当然の反応だよね。向こうは反応していたけどな。予想外だったのか?
「昼ごろにも刑事さんが来たんですよぉ。その時は祖父のことを聞かれたんですぅ。」
『刑事が?…何を聞かれたんですか?』
やっぱり予想外なのか。別に関係ないな。言うことに変わりはないよ。
「えーとぉ、祖父の知り合いについて…ですぅ。ただ、俺も子供のころだったし、半年くらいの話だったのでほとんど答えられなかったんですけどぉ。」
『その人たちの名前、教えてもらえませんか?』
そうくるよな。答えてもいいけど、都合よく、刑事どもが忠告してくれたしな。
「すいません。刑事さんが他の人には話さないように、と言われたのでぇ。それにさっきも言った通り、はっきりと断言できるものじゃないんですよぉ。」
俺っていつも思うけど、俳優になれんじゃないかな?思ってることと真逆のことでもなんともないしな。二人は少し気落ちしてるようだ。まぁ、詰んだだろうし、しゃーないね。
『そうですか…。おじいさんはどのような方だったんですか?』
「祖父ですかぁ?…温厚でとても優しい人でしたぁ。未だにあんなことをしたなんて信じられません。」
哀しみを含んだ表情で答えた。他人から見たじじいの性格を。温厚?優しい?自分で言ってて笑いが出そうになる。抑えろ、抑えろ。
『そうですか。お手間をおかけして申し訳ありません。最後に一つだけ、構いませんか?』
「なんですかぁ?」
まだなんか聞くことあんの?…なんだろね?
『″白い狼が殺した。″と、言うのはどうゆう事なんですか?』
固まった。頭ん中が、思考が。なんでそれを知ってる。調書の中の記述は消されたはずだ。残ってる訳ないんだ。
別に俺がそう言ったことが知られても、問題ない。恐怖のあまりにそう見えた。それで十分だ。肝心なのはそこじゃない。問題なのは思い出してしまうこと。あの時を。あの情景を。頭に血が上って、まともに演技なんてできなくなってくる。なんとか答えないと。
「あ、あんな光景見たんで、そんな風に見えたんだと思います。…すいません、思い出したくないんで、これでいいですか?」
『…すいません。ありがとうございました。』
そそくさと帰っていった。最後は雰囲気が変わっちまってたか。しゃーないな。これでも耐えた方だから…。
″ピリリリリリ″
ケータイか?誰だ?…バカ犬。
「はい、なに?」
『相棒か?パソコンを少し使いたいんだが、いいか。』
声を聞くだけでいらだってくる。あいつを思い出して怒りしかわいてこない。
「そんなことで一々連絡しないでいいよ。勝手に使って。」
電源を切ってベッドに投げ付けた。…飯、買いに行こ。