第一一三話 隠された事件
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八年前、十二月二十五日。
零時丁度、ロライス・グラインが死亡。死因は一般には心臓麻痺による自然死と公表。実際は殺害。それも心臓に取り付けているピックを誤作動させ、電気ショックを起こしたという、前代未聞の事件だった。
犯人はロバート・アウディス。犯行後、警察署に自ら自主してきた。
彼によると、
″自らの犯した罪が恐ろしくなり、自主するに至った。″
とのこと。犯行についても自供している。
″その男が入院していることを予め知っていた。病院のデータベースに侵入し、入院している病室を調べ、チップに繋がっている機器へ移り、セキュリティをかい潜って誤作動させた。″
彼はチップへのハッキングを成し遂げた。自作プログラム″オーディンの槍″による侵入。チップへのハッキングさえ異例であるのに、最深部である生命器官へ到達した。これに対し、国際連合は早急にセキュリティの改善を行っている。
動機については、娘の敵討ちと答えた。同年の八月十五日、彼の娘であるシアル・エイデンが夫、次男と共に殺害されるという事件が起こった。犯人は特定しておらず、有力な証拠も見つからず、捜査は難航していた。
また、この情報は外部に漏らす事を禁止し、以後、″X-File″に区分するものとする。
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『大体そんなものか…。』
親父の話が終わった。正直、こんなにもすんなりと話してくれるだなんて思ってもみなかった。だからこそ、何かあるだろうと疑った。
「見返りに何が欲しいんだ。」
未だケンカ腰になってる自分が少し間抜けに思えた。それでも、変えたくはない。ただの意地だとしても…。
『簡単なことだ。早く奴を捕らえて、身柄を渡してくれればいい。話せば捕らえてくれるんだろう?』
簡単に言ってくれるな。あんたらだって苦労してるくせにさ。
『それよりも、早く出て行ってくれ。私も忙しいんだ。他の事は自分で調べてくれ。』
窓の外を眺めていた親父は振り返り、机へ向かう。そして、部屋に入ってきたときと同じ姿勢で書類に目を通し始めた。欲しい情報は貰えたんだから、もう出て行くべきなんだろう。少し沈黙した後、後ろの扉に近づいて行く。
「親父。」
取っ手に手をかけたとき、どうしても一言言いたいことがあった。
『何だ?』
「…ごめん。」
取っ手を引き、部屋を出た。
行きと同じエレベータに乗り、下の階のボタンを押した。手掛かりはあった。”オーディンの槍”を作ったロバート・アウディス。そいつに会うことで、何か得られるはずだ。先輩も何か得ているだろうから、それと共に追おう。ただ、一通り話してくれた後、親父が少し付け足したことも、少し気になった。それも話しておくべきだな。病院に居るはずだから、迎えに行こう。
…二手に分かれようと提案したのは、先輩に親父とのことを知られるのが嫌だったのもあるが、病院に行くのも辛いからだ。お袋は閉じた瞼を開けないまま、ずっと眠っている。たまに顔を出しているが、その顔を見ているのが辛く、話しかけてはいるがあまり長い間いない。いない、というか、居られない。
下の階に着いた。入口の方で何人か固まっているのが見える。何かあったんだろうか?遠目から見ていたら、そこに知った顔があったことに驚いた。
『先輩!どうしたんスか?!』