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第一〇九話 死者の美術館

「お…墓?」


帰ってきた言葉はあまりにも以外なものだった。聞き間違えた訳じゃなかった。


『ああ。』


狼さんはそれだけ言うと、部屋の左側にあるドアへ近づいて行く。私はその後について行く。狼さんはおもむろにズボンのポケットから何か取り出した。


“カチャッ”


音でわかるね。ドアの鍵だ。鍵をかけてるってことは大切なものがあるんだろうね。お墓って言ってたし、誰か眠ってるのかな。


ドアノブを回してドアを開けてくれた。頭を一度中の方へ振って入るように促した。私はゆっくりと進んでいく。窓がない部屋で電気が消えているから、ドアから差し込む光しか明かりがなくて、中の様子がイマイチつかめない。ただ、さっきよりも油のような臭いが強くなった。


“カチッ”


足元でさえわかりにくくなった時、狼さんが明かりを点けてくれた。突然の光に少し目が眩んだけど、すぐに慣れて、閉じたマブタを開いた。


目に飛び込んで着たのは色のついたキャンパス。それもすごい枚数。部屋はあまり広くなくて、キャンパスが置かれた棚が両方の壁を隠してしまってる。一番奥には、女の人と幼い女の子が描かれた絵が掛けられてる。


『俺が今まで殺してきた人達の墓。ただの絵だが、俺にとっては墓標なんだ。』


狼さんは話を続けた。昨日のように、少し切なく、寂しそうに…。


『訓練を受けていた頃だ。毎晩夢を見た。見知らぬ部屋で殺した奴らが夢に出た。死者に追われる夢。顔までが克明に映る。俺はどうすればいいのか、わからなかった。』


後ろにいる狼さんの方を見ると、俯いてしまってる。


『そんな時に思いついたのがこれだ。死者を弔うこと。そして、俺が殺したのだと受け止める。そうした時、初めて夢を見ずにすんだ。以来、続けてきたんだ。』


「すごい数…。」


狼さんが今までしてきたことがここ全てなんだ。昨日、私が感じた感情を数えきれない程経験してきたってこと。…考えられないなぁ。


一枚絵を見てみた。そこには、少し白髪の混じった、頬がこけた男の人が描かれていた。なんとなく、悲しい目をしてるように感じた。…ちがう。なんとなくだけど、奥の壁に掛けられてる絵だけは他とちがう気がした。


「…奥の絵は誰なの?あれもお墓?」


唐突に聞いた。気になるから。


『あれは妻と娘だ。…ただの思い出だよ。』


あれが…狼さん、ううん、シンの求めた家族。どうしても取り戻したかったもの。それがもう戻らない。


先にシンはこの油の強い臭いのする部屋を出ていった。私はまたその後についていく。机の上の歌姫さんの絵を手にしていた。


「描いてるところ…見ててもいい?」


『…好きにしろ。』


シンはこっちを見ないでイスに座り、筆を取った。私は色がのっていくのを眺めてた。

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