第一〇六話 X-File
緩いカーブをえがく廊下を進んで行くとその終りに扉がある。この扉も他と同じで金属製の重っ苦しい感じだ。ただ、妙に傷だらけのように思うが…。
ザイレイが手を出し、扉横の一部色の違う壁を触れる。一瞬光ったかと思うと、金属の擦れる嫌な音とともに扉がスライドしていく。
部屋の中は外と違いかなりきれいだ。当然窓なんかないが、部屋の真ん中には四角い机があり、それを挟んで黒のソファが二つ。俺より頭一つ分程小さい観葉植物が部屋の角にある。後はパソコンを置いたデスクが壁に向かって置かれている。
『それで何の情報が欲しいか?』
ザイレイはデスクに着き、俺達はソファに腰を下ろす。そういやまだ話てないから当然か。
「“オーディンの槍”って知ってるか?」
『単刀直入だな。…聞いた事はある。確か何年も前に一度使われた、クラッカーのプログラムか。』
クラッカー?ハッカーみたいなもんか?いや、今そんな事はどうでもいい。
「そうだ。その前の事件について知りたい。」
『わざわざ来るということは閲覧禁止か、そもそも無かったものにされてるか。』
“オーディンの槍”と言う名は案外すぐ知れた。ウチのサポートにターシェの様な事件はあったか、と聞くとすぐに答えてくれた。なんでもハッカーとかの間だとかなり有名なんだとか。
ただ、それは噂でしかなかったらしい。事実、それについての事件を調べてもザイレイの言う通り、無かった。当たり前と言うべきだろうな。そんなもんが知れたら、病院になんて信用できなくなっちまう。…なんて言っていられないのがまた辛い。
「見つけられるか?」
『もちろん…と言いたいが。』
…どうかしたのか?、と口に出そうとしたが、画面の表示に言葉が止まった。
“X-File”
『ダメだ。ここからではわからない。』
「X-Fileってなんだ?」
バンもソファから立ち上がり、パソコンの前に着た。
『簡単に言うと極秘事件扱ッス。公表すると多くの問題を生むで隠されてて、管理は一つのコンピュータで行われ、ネットワークに繋がっていないからどうやっても侵入不可能なんスよ。しかも、内部の人間でも、かなりの位の人間じゃないと入ることすらできないんス。』
くそっ。…にしても、詳しいなバンは。
『“ケルベロス”についてはどうッスか?』
バンが最終目標を聞いていた。たが、あまり期待できない。
『残念だが、それについての情報で有力のものはない。情報量がかなりだが、ガセか推論程度。』
うなだれるバン。そりゃそうさ。警察が情報公開して、懸賞までつけ捕まえようと躍起になってるんだ。そんな情報があれば直ぐにひろまる。
警察にコネはねぇし、いくらボスでも難しいか?お手上げか、そう思った時だ。
『先輩、警察に行きましょう。』
何か策が浮かんだか、と振り返ったが、今までにないほどバンの表情が険しかった。怒りとか…そんなものが含んでいるような気がする。
『行くなら、何か入れば連絡する。金は貰うが。』
「分かったよ。」
やっぱし、金取んのかよ。まぁ、商売だしな。
バンの表情からはさっき感じたものは見えなくなった。それでも、さっきのは気のせいじゃない。警察に…なんかあるのか。疑念は晴れないまま、俺達は部屋を後にした。