第一〇四話 古い知合い
『これから会いに行く人って誰なんッスか?』
助手席に座っているバンが尋ねてきた。
「俺の古いダチだよ。」
俺は顔を向けずに答えた。
昼前に目覚め、会社には寄らず、直接バンを迎えにきた。あいつの居場所を知ってるのは俺だからな。どうしても、必要な情報があるんだ。
「着いたぞ。」
ある古いビルの前で車を止めた。外見はひびや欠けている部分が目立ち人なんていないように見えるが、中は対照的で物が溢れ、人がごった返している。
ここにいるのは外人やハーフだ。地下がまだ工業やらでちゃんと回ってた頃に、安い労働力として雇われてた奴らが職を失い、家を失った後、集まって古いビルを買い取り、自分たちの家にした。今じゃ、いろんな国の文化が混ざって、新しい国みたいになっている。
「スーツなんて場違いだろ?」
『そうッスね。先輩が言ってくれなきゃ、浮いてたッスね。』
郷に行っては郷に従え、だったか。まぁ、一回スーツで来たときに気付いただけなんだがな。
「この店だ。」
朱い看板にテレビとかでしか見たことないような食いもんが並んでいる。前はカバンとか並んでたはずなんだが…。
『こんな所にそんな人が−。』
『見た目で物事判断するは良くない事。』
突然後ろから声がしたら、そりゃ人間ビビるわな。俺はこいつのノリを知ってるから、そろそろ来るだろうな、って思ってたんだが。バンはかなり反応しちまって、振り返って身構えていた。
『反応はまあまあ。でも、少し鈍い。やっぱりまだまだ。』
『し、失礼ッスね。誰ッスか、あんた。』
そろそろ間に入るか。
「バン、こいつが話した奴だよ。ったく、ザイレイ、お前の人をからかう癖、まだ治してないのか。」
『前に言ったは忘れたか?からかう、でなく、試す、だ。』
相変わらずだな、ザイレイ。背は小さく、ぱっと見だと中学生と間違えるくらいだ。いい年なんだけどな。普段、顔はなんつーか…何考えてんのかわかんねぇ。死んだ魚みたいな目だし、口はどことなく怒ってるように見える。もー少し、女らしくならないもんかと散々苦労したのを覚えてる。
『目で訴えるな。変わらないは悪くない。』
聞いててわかる通り、言葉の繋ぎが変だ。こいつは母親が外人のハーフ。けど、難しい言葉はよくしってるんだ。俺なんかよりよっぽど、な。
『それで、わざわざここまで来たは何故か、セン。』
『セン…?』
ったく、またややこしい事を…。
「昔のあだ名だ。そんなこたどうでもいいから、早く本題に入るぞ。」
店の中にさっさと入っていった。行くべき場所はちゃんとわかってっからな。
店の奥へ進んでくと、横からさっとザイレイに抜かれた。
『センが先に行っても入れない。相変わらず馬鹿。』
てめぇも相変わらずひねくれてるなぁ。バンのツメの垢を飲ませてやりてぇよ。
こいつに知り合ったのは、俺がオヤジんとこにいた頃だ。ザイレイが暴力団にいた訳じゃねぇぜ?こいつは情報屋だ。父親からだから二代目だな。父親はもう引退してて、夫婦でどっかのドームにいるはずだ。この店で働いてんのはザイレイの同業者連中だ。
『ちょっと待つ。』
奥のドアを開けてすぐ、ザイレイに止められた。俺は言うより先に止まってたがな。ザイレイはどこからか、カードキーを出して、柱と壁とのすき間にしか見えない間に差し込んだ。カードが出て来た直後、鈍い音がし、部屋が揺れた。
『な、何ッスか?』
突然の事にバンが声を荒げた。
「安心しろ。いつもこうだよ。」
『その通り。間もなく私たちの部屋だ。』