第一〇一話 舞台裏
誰がどう思ったとしても変わらないものがあり、それが事実だとわかると、絶望以外の感情が浮かぶことはない。
目の前に広がる夜景には何の感情も浮かない。私には既に関係のない世界。それでもここにいるのは“必要”だからだ。
定時を迎え、部屋を囲うガラス窓には一瞬で夜景から黒い人々の集う、会議室が映った。そこは薄暗く、陰気臭い。好みじゃない。
モニター越しに集まった会員の中、一人が立ち上がり語り出した。
『計画は予定通り進んでいる。』
男か女かはっきりとしない、無機質な声が流れる。会員にさえ素性がバレないようにしている。この十一人の自分以外誰もわからない…ようになっている。
『問題があるとすれば、筋書きから1mmすらズレていないことぐらいだろう。』
冷笑。当然だ。センスがない。
『我々はこのまま傍観者の立場を変えない。さすれば、世界は自ずと進むべき道を辿るだろう。』
そう。それが最も適切な手段だ。最も悪質でもある。
『では、また後日会おう。』
モニターの中に映っていた人物が消えた。それを合図に他の影も消えていく。私もその中の一人になる。
『会議は終わられましたか?』
「ああ、ただの報告だけだったがな。」
通信が切れた直後、部屋の外からヤジが入ってきた。ヤジは私の協力者だ。かの一員になった直後に知り合って以来、ずっと私の元で動いてくれている。任務に忠実で、期待以上の働きをしてくれる。私が唯一信頼している人間だ。
彼には全てを話している。私の計画を。目的は異なるが、望む結末は同じ。だからこそ信頼できる。
『我々の計画に変更は?』
「なしだよ。今後の動きは既に伝えた通りさ。」
ヤジは部屋の角のワインセラーからボトルを取り出し、グラスに注ぎ、私に勧めた。それを受け取り、一口口に含む。
「旨い。…私達だけなんだ。君も呑むだろう?」
飲み込み、自らには注がずにボトルを仕舞おうとした姿を見て尋ねた。それでも、彼は動作を止めようとはしなかった。
『仕事がありますので…。』
鋭い視線を扉に向けると、微かに開いていた扉が動いた。誰か聞いていたらしい。
「あまり汚さないように頼む。」
『承知しております。』
彼はさっと手袋を外しながら部屋を出た。優秀な彼ならば、あっと言う間に始末してくれるだろう。再び誰もいなくなった部屋を見渡し、紅いワインをのみほす。窓を見ていても、夜景を見ている訳ではない。あの日…計画の主軸となる二人がここで衝突した、その様を思い描いていた。
長かった。もうすぐだ。私の求める未来に後少しで手が届く。
立ち上がり、窓へと近づきこの世界で唯一興味のある物を眺め、部屋を後にした。