第九話 街ブラ
結局4人で朝まで飲みあかし、翌日目覚めたのは15時過ぎだった。
宿屋へ戻りそのまま泥のように眠ってしまった様だ。
二日酔いと疲れが相当たまっていたのが原因だろう。
まぁ、初めての仕事で精神的にも肉体的にもヘトヘトだったし、飲酒デビューでもあったしね。
シャワーを浴びて宿屋1階にある食堂で遅めのランチをとる。
今日のランチメニューはサーモンとほうれん草のパスタだった。
この世界にきて既に1か月以上経っているが、料理こそシンプルなものばかりだが、味は意外に美味しかったりする。
まぁ、全く聞いた事ない食材も多く不安を覚えないわけではないが、料理人の腕と工夫で驚くべき一品へと化けていた。
歴代の勇者がもたらしたであろう調味料の影響も大きいんだろうなぁ~。
ただスイーツに関しては驚く程種類がない。前世でスイーツ男子だった僕としては正直物足りなく感じている。
そしてお腹が膨らんだところで市街地へと向かった。幸いな事にマロンさんとの訓練は明日からなので今日は街をブラブラ散歩する事にした。
道中ステータスを確認すると昨日だけでかなりレベルが上がっていて嬉しくなった。
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名前:ハルト・サナカ
種族:人間(♂)
年齢:17
職業:風の勇者
レベル:19
HP(体力):7000
MP(魔力):5
STR(攻撃力):23
DEF(防御力):27
AGI(素早さ):26
INT(賢さ):16500
LUCK(運):-31
魔法:風属性魔法 召喚魔法
スキル:【鑑定】【MP自動回復(中)】【無詠唱】【危険感知】【全状態異常耐性50%上昇】【言語理解】【アイテムボックス】【料理】【命中率50%上昇】【魔力制御】
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数値の上昇率は相変わらずなんだけど、嬉しい事に【MP自動回復】が(小)→(中)に上がっていた。これは大きい。(中)になった事で8秒でMP1回復するようになるからね。
最大MP5の僕にとっては嬉しすぎる成長だった。
まず向かったのは鍛冶屋だった。
「おっ、随分と早かったな」とアズッキーさんは驚いていた。
昨日の今日で必要な素材を全て揃えたのだから、まぁそうなるよね。
素材集めの際にイノブタキングの角も手に入った事を伝えると、より強力な武器ができる素材である事を教えてくれたので一緒に手渡した。
「想像以上のものが出来そうな気がするぞ」
鍛冶屋魂に火が付いたのかアズッキーさんのやる気がみなぎっているのがわかる。
完成予定は一週間後との事で僕自身ワクワクが止まらなかった。
また、折れた銅の剣をみせたがやはり買い替えが安いとの事だった。
その際今回は‘レイピア’をすすめられた。
`レイピア'は突くだけでなく切り裂きにも使用でき、何より一般の片手剣の中でも軽量であるのが非常に大きかった。腕力がない僕にもぴったりだ。
その後雑談を少々して店を後にした。
一週間後の再訪が非常に楽しみだ。
次に向かったのはギルドだった。
昨日は素材の買い取りだけしてもらっていたからね。報告は今日改めて行うというわけだ。
カウンターで受付嬢のフィーキさんにギルドカードを手渡す。戦果もこれに記録されているから何とも便利なカードである。
「あらあら~、イノブタキングまで討伐されたんですね」
「はい。まぁ倒せたのはマグレなんですけどね」
下手に自慢して期待されたり噂になったりするのは御免だ。敢えて控え目に答える。
「イノブタキングはCランクの魔物ですよ。残念ながら依頼外なので報酬やポイントの対象にはなりませんが、‘風の勇者’様の実力の片鱗を見たと言うところですかね。これからのハルト様に期待大です」
フィーキさんは笑顔でそう言ってギルドカードを返してくれた。
「おめでとうございます。ハルト様は今日からランクEに昇級です」
「え?まだ依頼1件目ですけど…」
「仰る通り依頼はカマキリナイトの討伐(ランクE)1件だったのですが、キラーウルフ(ランクE)を30体も討伐されており、それが森の治安維持への貢献として認められました」
これは嬉しい誤算だった。追われながら適当に倒していたのにね。
次からも余裕がある時はどんどん敵を倒そうと思った。
そしてギルドを後にした僕は最後に露店を巡った。
この世界の事をよく知るためにも自ら色んな所に足をのばす事は大切だ。
古着やアクセサリー、本…色々手が出そうでヤバい。
僕はお祭りの露店大好きだったから露店を見るとテンションが上がってしょうがないのだ。
適当に歩いていると、ふと甘い香りがして誘われるように果物露店で足が止まった。
今は9月下旬という事もあり店頭には柿やマンゴー、リンゴ等の旬の果物が山積みになっていた。
季節や旬の果物も前世とほぼ同じなので非常にわかりやすくて助かる。
果物を眺めていると久々に料理でもしよっかなぁ~と心が揺さぶられた。
「随分と楽しそうですね」
「えぇ、この果物をを前にすると料理意欲が掻き立てられて…」
って、えぇ!!
リンゴを手に持ったまま声の方を振り向いてみると、そこには笑顔を浮かべたマロンさんがいた。
「マッ、マロンさん!え、え?どうしてここに…」
「ちょっとこの先の孤児院に行ってました。‘聖女’としてのお勤めです。でもまさかここでハルトさんと出会えるなんて。リンゴ好きなんですか?」
素っ頓狂な声を上げた僕にマロンさんは優しく語りかけてくれた。
漆黒の修道服に身を包んだマロンさんは昨日とはまた違った凛とした雰囲気で如何にも‘聖職者’といった感じだった。
「うん。リンゴもだし果物自体も好きなんだよね。久々に何か作りたくなって…」
「ハルトさん料理なさるのですか?」
「趣味の範囲だけどね」
「料理できる男性って素敵ですよね~」
「マジっすか!?」
「マジっす(笑)ちょっとお恥ずかしい話なのですが、私自身あまり料理が得意ではなくって…。だから趣味で料理されてるハルトさん素敵だと思います」
なんかめっちゃキラキラした目を向けられてる。かなり照れてしまう。
「もっ、もしよければ今度作るので食べてくれませんか?」
「えっ、いいんですか!?すごく嬉しいです」
「おぉ~俄然意欲が湧いてきましたー!絶対、期待に応えますからね!!」
勢いのまま宣言してしまった。
「ふふっ、楽しみにしてますね。基本的に私は好き嫌いないですから。いつでもウェルカムですよ」
こんな嬉しそうな表情で言われたら断れませんよね。
これは2人の間にいい雰囲気が漂ってきたんじゃないか…と思ってきたところで、‘すみません、そろそろ…’と声がかかった。
え!?他に人いたの?と驚きつつマロンさんの周りをみると、同じような修道服姿の女性が2人いた。
うわぁ~、全く目に入ってなかった…。何かすみません。
これ以上足止めしては申し訳ないと思い、‘では、また明日の午後に’と言って別れた。
よし、いつか料理を食べてもらう為にこのまま調味料を買いに行こう。久々に自炊もしたくなったしね。
二日連続マロンさんに会えた嬉しさも相まって、僕はその後も気分良く露店巡りを続けたのだった。