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第八話 メアド交換★

2016年7月20日  挿絵を追加しました。一部加筆修正をしています。

2016年12月17日 誤字脱字を修正しました。



「らいらいあならと言うひろは、むれっぽうにもほろがありまふ~。もしわらしがいなかったら~、あなら今頃ひらりうれなかっらのれすよぉ~」


 僕は今、酔っぱらって頬を真っ赤に染めたマロンさんにお説教をされていた。


 うん、何となく言いたい事はわかるけど…完全に呂律が回っていないよな。‘た行’が全然言葉になってませんよぉー。


「本当に面目ないです」


 そして何故かひたすら謝る展開となっていたのだ。


 4人がけのテーブルで目の前には酔っぱらったマロンさん、その隣にはタルトさん、僕の隣にはズコットさんという布陣だった。


 何故この様な状況になっているのか、少し説明させて欲しい。









 場面は僕とマロンさんが握手を交わしたところまで遡る。



「いつまでそうやってるんだいお2人さん」


 慌てて手を放し声の主を確認するとそこにはニヤニヤ笑う女性と男性の姿があった。


「タルトさん、ズコットさん!来てくれたんですね~」


 マロンさんは嬉しそうにそう言ってタルトと呼んだ女性に抱きついた。


 その女性に頭を撫でられて喜んでるマロンさん。可愛いではないか。しかも、あんなにギュっとハグして羨ましい~。


 って何に対抗心燃やしてるんだか。



 そしてマロンさんを介してお互いの自己紹介をした。



 ‘忍者’のタルトさんは赤髪のツインテールで‘忍者’と呼ぶには露出部分が多すぎる忍び装束を纏っていた。


 その包まれた肢体は女性的な起伏に富んでおり、とても魅惑的な雰囲気を醸し出していていた。


 正直目のやりどころに困る。


 彼女を一言で言い表すなら、‘セクシー・くノ一’がピッタリだ。


 そのまんまだけどね。


 ただ、いざ話してみると気さくな心配性のお姉さんだった。


「わからない事あったら何でも聞いてよ。お姉さんが優しく教えてア・ゲ・ル♥」


 不敵な笑みを浮かべ急にそんな事言うもんだから、よからぬ事を妄想してしまう。


 マロンさんは「いつもこんな感じですから気にしないで下さね」と言うが、健全な青少年にとっては刺激が強すぎますから~。



 ‘重剣士’のズコットさんは190cmはあるだろう長身で細身だが筋肉質の引き締まった体をしていた。にも関わらず、それに似合わない甘いマスクをしたイケメン剣士だった。


 きっとモテるんだろうなぁ~。


 タルトさん曰く昔は非公式ファンクラブもあったとの事だった。


 ただ、ズコットさん自身が寡黙な事もあって口数は少ないらしい。実際僕との挨拶も「…よろしく」の一言だったしね。


 昔はその顔に似合わず“戦闘狂のズコット”という異名がつくほどの戦闘マシーンだった。


 しかし、それでも今なお男女問わず慕われているのは顔以外にも普段の彼の人柄のお蔭みたいだ。


 そして一番驚いたのは20歳にして既に1児のパパだという事。


 とても4歳児の娘がいるとは思えないなぁ~。


 いつか恋愛のご教授をお願いしたいものだ。



 ちなみにお2人は“隠形(おんぎょう)”というタルトさんの【忍術】で姿を隠し近づいて、数分前から眺めていたとの事だった。


 いやいや、もっと早く声をかけてくださいよぉ~。


 呼び方のくだりとかまるまる聞かれてたみたいだし。今更ながら恥ずかしさに襲われる。



 自己紹介も無事に終わり、森の中腹キャンプスペースを目指して歩きだした。


 今回は騎士団をともなって探索にきていてキャンプスペースに待機させてあるとの事だった。

 


 その道中。タルトさんが主導権を握り質問攻めにあっていた。


「長時間2人っきりでナニしてたんだい?」


「やけにお2人の距離が近かったよね~」


「異性とのスキンシップ苦手なマロンが自分から握手なんてね~」


 マロンさんは真っ赤な顔してあたふたしていた。


 タルトさん、悪い笑顔で完全に楽しんでるでしょ。


 ズコットさんは“うんうん、皆まで言うな”とばかりにただ頷いてるだけだし。


 でも、何かいい雰囲気だなぁ~。これがパーティーってものなんだなぁ。


 3人はドルチェ王国でも信頼厚い屈指のAランクパーティーらしいのだが、なんかわかるような気がするなと感じた。


 そして、人見知りな僕でもいつかは自分のパーティーを持ってみたいと密かに思うようになった。


 まぁそれが叶うのはまだだいぶ先になりそうだけど。


 そうこうしているうちにキャンプスペースに到着し、そのまま騎士団に保護され街まで戻る事となった。



 馬車の中で僕の隣にはマロンさんが座っていた。そして何か言いたそうにモジモジしている。


 もしかしてお手洗いに行きたいのか?


「どうしたの?」


 恥ずかしそうにしていたので小声で聞いてみた。


「あっ、あにょ…」


 あっ、噛んだ!かっ、可愛すぎます~。


 マロンさんの顔はもう真っ赤だった。


「めっ、めっ、メールアドレスの交換をして下さい」


 そう言って僕の方にギルドカードを出してきた。


 えっ、メアドの交換ですって!


 可愛い女の子からそう言ってもらえるなんて、めちゃくちゃ嬉しい…。


 コレは夢じゃないかと手の甲をツネってしまう。


 ‘痛っ’うん、夢じゃない。では、早速交換を…って‘ん?’今何と仰いましたか?



‘メールアドレスの交換?’


 今いち状況が読み取れなかった。


 だってここは異世界。PCもなければ携帯電話もない世界なのである。


 聞き間違えか?



「あの~、今メールアドレスの交換って言葉が聞こえたような…」


「はい、メアド交換です♪」


 嬉しそうに話す表情頂きましたー。ってそうじゃない、完全に‘メアド交換’って言ったよね。


 聞き間違えじゃなかったんだ。


 う~ん、でも文明レベルで考えてもあり得ないような…。


 アレコレひとりの世界に入ってしまう。


「ハルトさん、ハルトさん、ひょっとしてメールアドレスについてご存知なかったの?」


 心ここにあらず状態だった僕はその一言で我にかえった。


 って、目の前にマロンさんの顔が~!近い、近い、嬉し近すぎです~。



「うん、ちょっとわからないかなぁ。是非教えてください」


 それからマロンさんによるメアド講座が始まった。

 

 この世界ではギルドカードの機能の一つに文字の送受信機能があるという。


 ギルドカードの表面にある‘m’ボタンを押す事で3Dホログラムが表示されそこのメニューから送信・受信できる仕組みとなっていた。


 なおホログラムキーボードまで出現可能でそれを利用し文字入力するとの事だから、これは完全に進んだ文明技術である。


 このメアド機能の歴史は3年前の終戦後にとある勇者が発明したものだった。


 電波塔や電線がない世界でこの技術を可能にした…成程、勇者が関わっていたなら可能なのかと思う。

 

 これも魔力や魔法石の成せる賜物なんだろうなぁ。


 ギルドカードの他に特殊加工ブレスレットにも付加できる機能らしく、まだ開発されて2年弱しか経っていないのに普及率は80%を超えているというから驚きだ。


 そして呼称の‘メールアドレス’、略して‘メアド’と呼ばれる所以は開発した勇者によるものだった。


 まぁそれはそうだよね。


 ちなみにできるのは通信のみで通話は無理との事だった。


 そしてこの技術が世界に相当な発展をもたらした事もうなずけた。


 たぶん国王が期待した‘勇者’というものはこんな風に発展で世界を導く存在なんだろうなぁ~。


 そう考えると確かに今の僕は‘ハズレ勇者’と揶揄されても仕方がないかと思ってしまう。ちょっとネガティブな自分が現れてしまった。



 それにしてもこれはもう僕がよく知っているあのメール機能と完全に同じだ。


 そして改めて思う。今僕は可愛い女の子からメアド交換のお願いをされている。この状況、嬉しすぎて泣けてきた。


 その後もメアドの設定方法から送受信方法まであくまで何も知らない体でイチから教えてもらい、非常に有意義な馬車のひと時となった。



 そして、街に到着してギルドで素材の売却だけを行い、報告と報酬の受け取りはギルドカウンターが混雑していた事もあり後日行う事にした。


 今はそれよりも何か口にしたい。一刻も早く酒場へ行きたい。


 馬車の中でタルトさんが‘新たな出会い&お疲れさま会’をしようと提案してくれてたからね。


 ギルドの用事を早々に切り上げ、急いでみんなが待つ酒場へと向かったのであった。


 ちなみにこの世界の成人は15歳。成人になれば結婚はもちろん飲酒も許されるとの事だった。


 僕は17歳だがこの世界では立派な成人男性だ。


 酒場のご馳走はもちろん飲酒デビューも楽しみだった。









現在



 人生初のお酒を味わったが、僕は結構イケる口だった。


 今日討伐したばかりのイノブタキングの肉も使ってもらい色んな種類の豚肉料理を堪能できた。


 目の前には空のジョッキとお皿の山。4人でさんざん飲み食いしたら、そりゃあ大きな山が築かれるってものだ。

 

 ちなみにマロンさんの前に空のジョッキは並んでいない。つまり最初の一杯で出来上がってしまったのだった。


「普段は全然飲まない娘なのにね。今日はハルトと出会えてよっぽど嬉しかったんだろうね~」


 とまたタルトさんが冷やかし口調で僕に言ってくる。


 横から「そんな事にゃいですぅ~」と言ってるマロンさんの姿に顔が綻んでしまう。


 冗談だったとしても、そのやり取りを見ていると嬉しく感じちゃうから僕も酔いがまわったのかなぁ~。





挿絵(By みてみん)

【イラスト:サトウユミコ様(@YumikoSato25)】





 1時間ほど経ってマロンさんはスース―と寝息をたててしまった。


 そんな彼女を見てコートをそっとかけるズコットさん。


 おぉー紳士だぁ~。しかもさりげなかったし。


「こういうところ、しっかり学んでおきなさいよ」


 僕がズコットさんの行動に熱視線を送っているとタルトさんがまたニヤニヤと言った。


 はい、しっかり勉強させてもらいます。やっぱりズコットさんからは男として学ぶ事が多そうだ。



「そう言えばさっきギルドで素材を換金してた時に気づいたんだけど、ハルトって【アイテムボックス】使ってるよね」


 流石タルトさん、よく見ていらっしゃる。


「えぇ、そうですね。初めから使用できるスキルでした」


「へぇ~、優秀じゃん」


「そうなんですかぁ?」


「【アイテムボックス】のスキルは‘勇者召喚’された人の中でも全員が取得してるわけではないらしいからね~。

 こっちの人間でもそのスキルを持っているのは100万人に1人の割合と言われてるし。正直羨ましいったらありゃしないよ」


「そんなものですかね?」


「そりゃあ、そうよ。荷物が無限に収納できるなんてこれ以上素晴らしい事ないわ。普通持てる物って限度があるじゃない。いくら大量に素材をゲットしても持ち帰れなければ意味ないしね。何よりアイテムコレクターにとっては是非とも欲しいスキルなんだよね~。」



 【アイテムボックス】は決して無限に収納できるわけではない。100種類×100個は可能みたいなんだけどね。


 まぁ敢えてそこは訂正しないけどね。



「ちなみにタルトさんは何かアイテムを集めているんですか?」


「いや、私は特にないんだけど、こっちがね」


 そう言ってズコットさんを指さす。


 ズコットさん何集めてる!?


「………ご当地抱き枕」


 ん?聞き間違えだよな…。


「………獣耳シリーズが最高」


 いや、ズコットさんのイメージとかけ離れてるな!


 うん、彼の名誉の為にも聞かなかった事にしよう。


「……勘違いするな。娘のだ」


 そうでしたか…。まぁ、もうこの話題は切り上げた方がよさそうだ。



 でも、確かに商品によってはかさばる物もあるし、そう考えるとやっぱり【アイテムボックス】は便利だと思う。



「まぁなんだ、私はハルトが平然と使用しているのを見て驚いたわけさ」


「なるほど。あっでもマロンさんの前でも使用しましたが彼女は特に驚きませんでしたよ」


「そりゃぁそうさ。マロンは【アイテムボックス】のスキル持ちだからね」


「100万人に1人だったんですね」


「う~ん、彼女の場合はちょっと特殊なんだよね~。所謂スキルの‘譲渡契約’ってやつさ」


「スキルって譲渡とかもできるんです!?」


「そうさ。宮廷勤めの文官クラスが取得できる【書士の心得】ってスキルがあれば大方のスキルは譲渡可能だね~」


 スキルの譲渡なんて可能なんだ…この世界奥が深すぎると改めて感じた。


「でも、【アイテムボックス】って貴重なスキルなんですよね。わざわざ譲渡してくれるなんて太っ腹な人もいるんですね」


「うん、まぁアレね。その辺の話はいつかマロン本人から聞きなよ。あっでも、とてもナイーブな話なんで…………言いたい事わかるわよね?」


 要は彼女が自分から話してくれるまで待てって事ですよね。


「はい、心得てます」


 そしてこの流れのままにタルトさんがちょっとお姉さん風を吹かせて聞いてきた。


「ハルトさぁ~。ひょっとしてマロンに惚れた?」


 直球で聞かれると困ってしまう。ただ、出会ってまだ数時間だが思い返すとそのひとつひとつでドキドキが止まらない。


 ただ、いくら可愛い・素敵だと感じても、それが恋なのかと言ったら正直まだわからない。


 次に恋する時は由紀子の件の二の舞は絶対に避けなきゃだし、だから慎重になっているのかもしれない。


 まだコレって決定打がないから惚れたと胸を張って言えない。けど、惹かれてる自分がいるのは確かだった。


「…好意がないと言えば嘘になります」


 今の心情を言葉にするのは難しい…ってか恥ずかしかったので、こんな言い回ししかできなかった。


「そっか、そっかぁ~」


 その言葉に何を感じたのかわからないが、タルトさんは嬉しそうにグラスを傾けている。



「この娘が自分からメアドを交換するなんて本当に稀なんだよね~。私自身も見てて驚いちゃったよ。実にいいものを見せてもらった」


 タルトさんは横で気持ちよさそうにして寝てるマロンさんの頬を突っつきながら優しい口調で続ける。


「マロンも過去に色々あってさ。詳しくは言えないけど、‘勇者様’に会えて本当に嬉しかったと思うんだ。だからさ、あんたも出来る範囲でいいからこの娘の力になってやってよね」


「もちろんです」


「イイね、その意気。でも、ハルトに向けるマロンの眼差しが‘恋愛’のそれじゃなかったとしてもだよ」


「はい…」


 マロンさんには助けられたという恩もあるし、これからも確実にお世話になる。


 例えそれが‘恋愛’ではなかったとしても、大切にしたい関係だと思っている。



「おっ、よく言った。じゃぁ何かあったらいつでもお姉さんに相談しなよ。恋愛相談大歓迎だからね」


 そう言ってタルトさんはまた二カッと笑った。「マロンはモテるからライバル多いぞぉ~」と余計な一言も付け加えて。



 その間ズコットさんはと言うと、僕たちの会話を黙って聞いてて、会話がひと段落したタイミングでジョッキを僕の方に寄せてきた。



≪ガシャン≫


 左手でジョッキを力強く握り僕らはあらためて乾杯した。





 僕は恋愛に臆病になっている。


 いまだに橋から落下した際のあの裏切りのキスが脳裏から消えないんだ。


 記憶がリセットされていないデメリットなんだろうな。


 あの瞬間に時が止まったんじゃないかとさえ思う。


 でも、もしこの異世界で僕の心を揺さぶる人が現れたのなら、


 また恋する事が出来たのなら、

 

 きっと前を向いて進んでいけるんだと思う。

 

 悪夢のような記憶を払拭する為にも、

 

 また恋がしたい、幸せになりたいと心の中で願っていた。

 

 そして、その相手がマロンさんだったらいいなぁ~と思う自分がいた。








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