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第六十七話 恋敵の攻防戦





『何と! ルーク選手の一太刀をあびてもカンフー・ラビット(蝋人形)は崩れない~。 それどころか、反撃に打って出てます!』


『ルーク相手にやるわねぇ。 あの蝋人形、凄い出来よ。 あれを作った蝋人形師はきっと凄腕ね』


『そうですね。 あのルーク選手とやりあえる蝋人形ですからね。 動きもキレキレですし、本当に見事な蝋人形です。 真っ白イカ串・(ろう)の鎧に次いでハルト選手の3種類目のアイテム蝋玉(ろうボール)はどうやら大当たりのようです』




 思いのほかカンフー・ラビット(蠟人形)が善戦してくれている。


 非常に有り難い。


 そして熱のこもった実況に会場が盛り上がる中、僕のMPもついに全快した。




属性闘気アトリビューション・オーラ


 すかさずスキルを発動し風属性魔法を全身に纏う。


 よし、身体能力が2倍に跳ね上がったぞ。


 これならイケる。


 そう思った時、目の前でカンフー・ラビット(蝋人形)が片膝をついた。


 まだルークの猛攻に耐えているが、その姿は明らかに劣勢だった。



「いつまでも蝋人形(おまえ)なんかに構ってられるか!」


 ルークはそう叫ぶと片手剣を鞘に収め、今度は30cm程の棒を取り出した。


 それはよく見ると剣の柄で柄頭には大きな魔法石が埋め込まれていた。


 そしてルークが構えると光の(やいば)が《ビュン》と音を立てて現れ、瞬く間に光の剣が完成したのだった。





『おっ、ルークのやつ“光の剣(ライトソード)”を出したわね』


『いよいよルーク選手も本気モードという事ですね』




 SF映画に出てきそうな“光の剣(ライトソード)”。


 実況が本気モードと言うぐらいだ。きっとそれなりの攻撃力を秘めているのだろう。


 僕はリングに突き刺してある“風のレイピア”を素早く回収し、カンフー・ラビット(蝋人形)の元へ走りだした。


 まだホーリーフィールドの効果が継続していた為、回収の際に多少ダメージを受けたが、今はそれどころではない。


 ぶんばってくれているカンフー・ラビット(蝋人形)の加勢をするんだ。


 そう思ってあと2m程の距離まで迫った時だった。



『ホーリースラッシュ』


 ルークの必殺技がカンフー・ラビット(蝋人形)の胴を貫いた。


 ≪ジュー、ジュ―≫と音をたてながら目の前でバラバラに砕け散るカンフー・ラビット(蝋人形)。


 一太刀であの大きな蝋人形を砕くとは…。


 ルークの“光の剣(ライトソード)”と必殺技(ホーリースラッシュ)には目を見張るものがあった。


 だが、今はそんな悠長な事を言ってる場合ではない。


 僕はすぐさま2個目の蝋玉(ろうボール)を目の前に投げた。


 先程と同様に白い煙が出て中から2体目の蝋人形が姿を現す。




『ハルト選手が使用した2個目の蝋玉(ろうボール)。そこから姿を現したのは土人形(ゴーレム)の蝋人形です!』



 

 今回の土人形(ゴーレム)(蝋人形)は先程のカンフー・ラビット(蝋人形)よりも更にひと回り大きかった。


 これまた強力な味方だぞ。


 僕はすぐに土人形(ゴーレム)(蝋人形)の背中に飛び乗り、肩へと駆け上る。




「だから、蝋人形(おまえら)には用はないって言ってるだろ」


 だがルークの必殺技(ホーリースラッシュ)がまたしても蝋人形(ろうにんぎょう)を粉砕する。


 でも、そこにチャンスが訪れた。


 僕は崩壊する土人形(ゴーレム)の肩をジャンプ台にし、思いっきりルーク目がけて上空から拳を振るった。


 “光の剣(ライトソード)”を振り切った状態のルークは、上空からの攻撃に素早く反応できていない。


「もらった!」


 僕の渾身のスーパーマンパンチがルークの顔面を捉えた。


 それはこの日ルークに与えた初めてのクリーンヒットだった。




『当たったー! ハルト選手の突き出した右手がルーク選手にぶち当たりましたー』


『おっ、見事に入ったわねぇ~。 護拳(ナックルガード)越しに殴っているから、あれは結構効いてるわよ』




 後方に吹き飛ぶルーク。僕はすかさず追撃にかかった。


 “風のレイピア”を構え、素早い突きを繰り出す。


 その突きは1発、2発とルークの胴を突いたが、3発目は“光の剣(ライトソード)”で受け止められてしまった。


 体制を崩しながらも、直ぐに対処してくる辺りは流石だ。


 だが、連続してダメージを与えられた事は大きい。


 とにかく今は攻め続けるべきだ。


 僕はさらに加速させ突きを放った。



「くっ。 流石に速いな」


 全てを受け止める事が出来なくなったルークから言葉が漏れる。



「これでも一応`風の勇者'だからね。 悪いけど、まだまだ加速するよ」


 僕はそい言って右肩に一突きし、バランスを崩したルークの胸を思いっきり蹴りあげた。


 2人の間に僅かな距離が出来る。


 僕はすかさず三角形を描くように突きを3つ放ち、そしてその真ん中部分に風の力を最大限に集めた最速の一撃を加えた。



三点刺突剣トライアングルショット】 


 接近型の新必殺技がルークの胴に命中する。


 ルークは防御力が高い王国騎士団の鎧を装備しているが、それでもかなりのダメージを与える事に成功した。




『決まったー!ハルト選手の会心の一撃。 ルーク選手のHPが一気に削られました』



【ハルト/HP:83%  vs ルーク/HP:84%】


 

『おぉ~。 HP残量もほぼ並んだわね。 これはいい勝負よ』


『ですね! 場内も一気にヒートアップしています』




 会場全体がすごく盛り上がっているのがわかる。


 先程ルークの顔面を殴った事もあり僕に対する野次も相当だった。


 でもそんなの関係ない。


 腹部を抑え(うずくま)っているルークに向け、僕は風の矢(ウインドアロー)を放った。


 だが、風の矢(ウインドアロー)はルークに届く事なく、彼の目の前で≪パカッ≫と二つに割れて消滅した。


 そして物凄いスピードで風の矢(ウインドアロー)を切り裂いた何かがこちらに向かって飛んで来る。


 それは確実に僕の顔面を捉えていた為、咄嗟に左手て顔面を守った。



≪ブスッ≫


 左手に刃物が刺さる。


 それは先程風の盾(ウインドシールド)を消失させた`白銀のナイフ'だった。


 そうか。風の矢(ウインドアロー)が消滅したのもコレのせいか。


 ってか、何本持ってるんだよ。魔法がこうも立て続けに無効にされちゃ、かなり不利だぞ。

 

 そんな事を思いながら、急いで後方へ下がり間合いをとる。


 ここで追撃されたらたまらないからね。


 だがルークは追って来る事もなく、その場で笑いながら余裕の表情を浮かべるのだった。



「この私が`白銀のナイフ'を1本しか用意していないと思ったのか?」


 上から目線の物言いが(かん)に障るが、今は一呼吸置きたかったから丁度いい。


 左手から‘白銀のナイフ’を抜きながら、僕は時間稼ぎをする事にした。



「正直2本目が出てきて驚いてるよ。 このナイフって高価なものなんだろ?」


「あぁ。 1本あたり金貨15枚だ」


「なっ、金貨15枚だと!!」


「まぁ、ハズレ勇者(おまえ)では手が届かないだろうがな」


 全くもって通りだった。とてもじゃないがナイフ1本に金貨15枚も払える余裕なんてない。



「悔しいけど僕には手が出せない値段だよ。 ってか、`白銀のナイフ(これ)'に一体いくら使ったんだよ?」


「金貨45枚だ」


「!?」


「ハハハ。あまりの驚き様に言葉が続かないか。 まぁ、これが私と貴様の()というやつだな。  ハーッ、ハッハ」

 

 ご満悦な表情を浮かべるルークだが、こいつは自分の失言に気付いていないのか?


 金貨45枚払ったって事は`白銀のナイフ'を合計3本購入したという事。


 つまりあと1本ナイフを隠し持っているってわけだ。


 魔法を唱える際は十分警戒が必要だな。




『おやおや~、何やら2人ともリング中央で言い合いを始めましたよ』


『そだね。 面白そうだからこのまま見てましょう』




 そんな解説をよそに、ルークはなおも自慢げに話しを続けた。


「でもな、これぐらいで驚いてもらっちゃ困る。 なんせ私の最後のアイテムは金貨100枚もする超レアアイテムだからな」


 金貨100枚だと!?日本円にして1000万円相当だぞ。


 きっと一番最初に使った‘毒の小瓶’もそれなりのお値段なんだろうし。



ルーク(おまえ)馬鹿だろ。 1回の決闘で金貨150枚近く使うなんて、一体何やってんだよ」


「ハァ?ハズレ勇者(おまえ)の方こそ、何言ってる。 勝てばマロン様と一日デート出来るんだぞ。 金貨150枚なんて安いものだろ」



 …何も言えなかった。


 だって、僕はこれまでマロンさんと普通にデートっぽい事していたから。


 でも、ルークの言いたい事もわからなくはなかった。


 僕も前の世界では彼女の為にならと貯金をどんどん崩していったからね。


 まぁ、その結果“お財布チキン君”という大変不名誉な称号がついてきたけどね。


 好きな娘に近づきたい。一緒にいたい。その為にお金を使う。


 うん、わからなくはないよ。


 ただ、それにも限度ってもんがあるだろ。


 正直この世界の金銭感覚をまだしっかりと理解しているわけではない。


 でもね、金貨150枚は流石にやりすぎだって。


 だから僕は敢えて言った。



「いや、それ駄目なやつだ」


「駄目なわけあるか! マロン様とデートする為の先行投資。 素晴らしい事じゃないか」


「うん。 でも限度ってもんがあるだろ。 度を越えた行為は愚かでしかないぞ」


「愚かだと! ハズレ勇者(きさま)、私を侮辱する気か!?」


「いや、忠告だから。 まぁ、なんだ経験者は語るって感じ。 それに勝てなければ大損失だぞ」


「はぁ? 私がハズレ勇者(おまえ)なんかに負けるわけないだろ!!!」


 ルークが“光の剣(ライトソード)”と片手剣の2つの剣を握り一直線に突っ込んでくる。

 

 決闘再開合図だ。


 レイピアと2本の剣が激しくぶつかり合う。


 突然二刀流になったルークだが、その剣さばきは意外にも華麗だった。


 ルーク(こいつ)使い慣れてるな。


 流石に本気でかからないと切り刻まれてしまう。


 僕は今出せる全力のスピードで対抗するのだった。


 

≪ガキン≫ ≪ビュン≫ ≪ビュン≫


≪ガキン≫ ≪ビュン≫ ≪ビュン≫


 剣を弾いてはレイピアを2度突き出し、徐々にルークのHPを削っていく。

 


「二刀流でもお前の速さ(・・)には勝てないか」


「残念だったね。 速さ(・・)は僕の武器だ。 悪いけど、これでお終いだ」


 

 レイピアがルークの左腕を貫き、左手から片手剣がこぼれ落ちる。


 僕はそれを場外へ蹴り飛ばすと、素早くバックステップを踏んで腕をグッと引いた。


 【回転式刺突剣(ガトリングショット)】で一気に決めるんだ。


「くらえ~!」


 必殺技の態勢に入り、1発目の突きを放った時だった。



「そう。 ハズレ勇者(おまえ)の武器はその速さ(・・)だ。 だから、それを潰させてもらう」


 そう言ってルークが最後のアイテムを掲げたのだ。


 ≪グワン≫と歪む視界。


 一瞬の事で何が起こったのかわからなかった。


 唯一理解できたのは【回転式刺突剣(ガトリングショット)】の1発目が空を切ったという事だけだった。




『なっ、なっ、なんと!! ルーク選手の最後のアイテムは…。 あれは何でしょうか? パネット様、ご存じですか?』


『えぇ、もちろん知ってるわ。 ってか、驚いたわね。 まさかここで”時の砂時計”を持ってくるとは…』


『”時の砂時計”? それはどのようなアイテムなのですか?』


『あれはね、つい最近王国魔法団で開発された希少価値が高いアイテムよ。 まさかドルチェ闘技場(ここ)に”時の砂時計(これ)”を売りに来てた商人がいるとはね…。 それにも驚きだわ』


『ちなみに”時の砂時計”とはどの様なアイテムですか?』


『うん。 あれにはね時空魔法が込められているの。 あの砂の色見える?』


『えーっと、青色ですね』


『そう、青色。 青色はね、対象者のAGI(素早さ)を90%下げるの。 しかもその効果は砂時計の砂が落ちるまでの30秒間続くのよ。 凄いでしょ』


『減速効果が30秒間も続くのですか! これまた凄いアイテムを開発しましたね』


『でしょ~。 ちょっと高いけど、ここぞという時に戦闘を有利にするアイテムよ。 是非皆さまも購入してね』




 のん気な解説だな!ってか、何ていうものを開発してくれてるの。


 僕のアドバンテージである速さ(・・)は、ベースとなるAGI(素早さ)に‘風の勇者’の恩恵が加わったものだった。


 そのベースが90%も削られるとなれば、これはもうただのビハインドでしかないぞ。


 現に今の僕は1発目の突きを放ったままの態勢で、超スローに動いていた。


 

「残念だったな。 これでお前の速さ(・・)は封じた」


 そう言ってルークは僕の側面に移動し、


「そして次はお前の武器を封じる」


 と、光の剣(ライトソード)を上段の構えるのだった。



『ホーリーブレイク』


 光の剣(ライトソード)が≪ビュイーン≫と音を立てて青白い光を纏う。


 そしてその青白い光は電動ノコギリのように激しく回転し、“風のレイピア”の剣先に振り下ろされた。




≪ボキッ≫


 何とその一撃で“風のレイピア”の剣先が真っ二つに折られたのだ。



『でたわね!ホーリーブレイク』


『別名武器破壊(ウエポンブレイク)とも呼ばれている、ルーク選手の十八番ですね』

 


 しばし呆気にとられてしまう。


 だって“風のレイピア”が折られるなんて思いもよらなかったから。


 だが、ルークのホーリーブレイクはその一太刀では終わらず、グリップの方向に次々と剣を振るい刀身を砕いていったのだ。


 驚きつつも我に返り“風のレイピア”を引っ込めようとするが、体が言う事をきかない。


 徐々に短くなっていく刀身。


 ”時の砂時計”のせいで減速状態の僕は、“風のレイピア”が砕かれていく様をただ見ている事しかできなかった。


 

 そして刀身を砕き終わったルークは僕の正面に向き直り言った。


「これはさっきのお返しだ」


 ルークの右拳がいまだスローな動きを続ける僕の左頬にのめり込み、力強い拳をモロに受けた僕はその場で膝から崩れた。


 あいつ顔面殴られた事、根に持ってたんだな。



 丁度そのタイミングで30秒が経過した。


 だが減速効果が解除されたからと言ってすぐに反撃できるはずもない。


 長い間ともに戦った“風のレイピア”を失った精神的ショックも相当あったしね。


 だが、ルークは待ってくれない。


 片膝をついたままの僕を見降ろしながら光の剣(ライトソード)を再度上段高く構えた。


「ほらな。 負けるのはハズレ勇者(おまえ)の方だ」


 そして光の剣(ライトソード)が再び青白い光を纏った時、聞き慣れた声が耳に入ってきた。



『何やってるんですかぁーーーーー』


 


 

 





年内の更新はこれで最後となります。

ここまでお読み頂きましてありがとうございます。

最近は多忙で更新頻度が月1~2回程度となっていますが、

引き続き来年もよろしくお願いします。


でわでわ、よいお年を~☆彡

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