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第六十四話 決闘の条件

2016年11月16日 誤字訂正しました。




【ドルチェ闘技場(コロシアム)


 ドルチェ王国城下街東にある闘技場。

 己の腕を試したり賞金を稼ぐためにと、腕に覚えのある猛者たちによって連日熱戦が繰り広げられている。

 多くの試合が賭けの対象となっている事もあり、日頃からどの会場も大いに盛り上がりをみせ国民の娯楽施設ともなっている。


 闘技場は武闘大会やモンスターバトル、式典など様々な用途で利用されており、街中での私闘が禁止されているドルチェ王国では決闘の際も闘技場で行われるのだった。







 会場の真ん中に設置されている正方形のリングの上で、今僕はルークと対峙していた。


 僕らが連れて来られたのは収容人数2000名という闘技場内でも比較的大きな会場だ。


 見渡す限り全ての座席が埋まっており、会場の後ろまで立ち見客でいっぱいだった。


 決闘すると決めてまだ1時間も経ってないのに、いったいいつの間に情報が広まったのか。


 ってか、こんな中で戦うの?ちょっと緊張してきたんだけど…。


 大勢の観客を前に自分の力を出し切れるか、少し不安になってきた。



 ルーク(あいつ)も同じ様な感じなのだろうか?


 そう思ってルークの方を見ると、彼は涼しい表情で屈伸運動をしていた。


 それにしても堂々としているなぁ。伊達に王国騎士団副団長を務めているわけじゃなさそうだ。


 って、感心してる場合じゃないぞ。


 落ち着け、落ち着け。観客はかぼちゃ。観客はかぼちゃ。


 『緊張する時は、周囲の人をかぼちゃだと思えばいいのよ』


 昔、姉に教わった事を思い出し心の中で必死に呟くのだった。



 そしてなんとか平常心を保つ事に成功した僕は、先ほど聞いたルールのおさらいをする事にした。


 えっと、今回の決闘は“1on1”形式で対戦条件は8面ダイスで決まる。


 ダイスには“勝利条件”と“戦闘条件”が書かれており出た目の条件で対戦する。


 条件に違反したり、リングの外に落ちたりすると即敗北。レフリーストップも有り得ると。 

 

 うん…。いまいちピンとこないぞ。


 思っていた決闘とだいぶ違うし。正直、かなり面倒くさくなっていた。



 そんな事を考えていると、


『あ~、あ~、お集りの皆様~。大変お待たせしました。ただ今より今宵の注目の決闘を執り行います。なお実況は私カンノロでお送りいたしま~す』


 カンノロさんという女性実況者の元気な声が響いて、観客席が一斉に沸いた。


『では今回の対戦者を紹介しまーす。

 まず私から向かって右側。王国騎士団副団長ルーク選手!顔良し、頭よし、スタイル良し。家柄も良く、将来性も十分あります。

 とある筋からの情報では王国騎士団の屯所には日々ルーク選手宛てにラブレターやお見合い写真が送られてくるそうです。

 お付き合いしたいという女性は数多(あまた)いますが、マロン様一筋のルーク選手。

 今回、勝利を手にし念願の一日デート券を手にする事ができるのか!?』


 ルークの紹介が始まるや否や会場が黄色い声と拍手に包まれる。



『次に私から向かって左側。‘風の勇者’ハルト選手!

 その能力の偏りから‘ハズレ勇者’の二つ名を持つハルト選手ですが、国の発展には全く貢献していないのに何故かマロン様とお知り合い。これはドルチェ王国の新・七不思議の一つと言っても過言ではありません!

 街中で2人一緒の姿も度々目撃されていますが、その度に男性陣から嫉妬と殺意に満ちた視線を集めています』


 って、おい。紹介の差ありすぎだぞ。


 そもそも二つ名って‘ハズレ勇者’(それ)で決定なの?しかも、嫉妬と殺意の視線を集めてるって…何それ!?


 ツッコミどころ満載の紹介に客席から笑い交じりの『頑張れー』の声が飛んできた。


 全くなんだかなぁ。調子が狂い苦笑いになってしまう。



『さてここで今回の対戦方法を決めたいと思います。お2人、どちらのダイスを振りますか?』


 カンノロさんの問いに応じる様にルークが僕に向かって‘お先にどうぞ’と手を差し出す。

 

 僕はレフリーが持ってきた2種類のダイスのうち‘戦闘条件’を手に取った。


 そして残りの‘勝利条件’をルークが取ったところで、アナウンスが流れる。


『それでは一斉にダイスを振ってくださーい』


 ルークが手前にダイスを投げたので、僕も慌ててそれに続いた。


 コロコロ、コロコロ、転がる8面ダイス。


 観客からは『何が出るかな?何が出るかな?』と何処かで聞いた事あるような掛け声が上がっている。


 そして転がっていたダイスが止まると同時に、ダイスからホログラム映像が浮かび上がった。



『さぁ、出ましたー!今回の条件はコレだぁ~』


【HPハーフマッチ 勝利条件:先にHPを50%まで減らせた方の勝利】


【スリーアイテム 戦闘条件:3つのアイテムを使用する事】


『決闘は‘HPハーフマッチ’&‘スリーアイテム’です!相手のHPを半分まで減らせた方の勝利となります。

 なおこの決闘においては3種類のアイテムを必ず使用する必要があります。HPを半分に減らせてもアイテムを消費していなかったら負けになりますのでご注意下さいね~』


 カンノロさんの熱のこもったアナウンスに会場が更に湧く。


 本当に凄い盛り上がりだなぁ。って、のんきかよ!これは他人事じゃないんだぞ。自分の決闘だ。しっかり説明聞いとかなきゃな。


 

『お2人には今から地下室に降りて3種類のアイテムを購入して頂きます。決闘中に使用できるアイテムはそこで購入したもののみ。ただ武器と防具に関してはご自身の物を使用する事も出来ます。新しい装備品を購入する事もよし、アイテムを選ぶもよし、戦いの展開を読んで3種類揃えて下さいね~』 


 そして会場に設置されている大型スクリーンに地下室の状況が映し出された。


 そこには既にたくさんの商人・職人が出店を構えていて、必ず商品を売ってやるぞといった熱気が画面上からも伝わってきた。


 なんでも商人・職人にとっては出場者に商品を買ってもらうと店の宣伝になるだけでなく、その出場者が勝利すれば商売の幅も大きく広がるのだとか。それが注目の一戦ともなれば尚更の事。


 そう考えると商人達も必死だし、これはチャンスなんだなぁと感じる。


 

 会場全体が盛り上がりを見せる中、カンノロさんの言葉は続く。

 

『さぁさぁ、気になる最終オッズですが、こちらで~す』


 掛け声とともにスクリーンの映像がパッと切り替わる。そしてオッズが表示されると会場からは驚きや納得の声が上がるのだった。



【王国騎士団副団長ルーク:1.3倍 vs ‘風の勇者’ハルト:6倍】


 

『おぉっと、これはかなりの差がついた感じです。やはり(・・・)ルーク選手が有利なのかぁ~』



 確か倍率が低い方が人気が高くて、勝つと予想している人が多い事になるんだよなぁ。


 ってか、僕の人気低くっ!?


 ちょっとへこんじゃうぞ。まぁでもこれも奮発材料にするしかないか。



 そして説明がひと段落したところで、レフリーが手を上に構えた。


『それでは今から決闘を開始します。アイテムを揃え20分後にこのリングに戻って来なければその時点で負けとなりますのでくれぐれも時間には注意してくださいね。でわでわ、スタートで~~~す』


 カンノロさんの叫び声にあわせてレフリーの手が振り下ろされる。と同時にリングの四方から打ち上げ花火の様に魔法が上空に向けて放たれた。


≪バーーン、バーーン、バーーーン≫


 スタートの合図だ。



 リングの両サイドにある地下へと続く階段。


 僕は急いで地下室へと向かった。撮影クルーが後ろから付いてきてるのは少し気になるが、今はアイテムを手に入れる事に集中しよう。


 そして地下室に着くとそこには既にルークの姿があって、たくさんの商人・職人が彼に群がっていたい。


 まぁ、あのオッズを見れば誰でもルークに商品を買ってもらいたいと思っちゃうよね。


 うん。凄くわかるよ。だけど、こうも自分の周りに人が寄って来ないのはちょっと悲しくなる。


 このまま入り口付近で待っていても(らち)が明かないと思い、僕は出店を歩いて回る事にした。


 と言っても大半がルークに群がっていたし、出店に残っている人達もルークが来るのを待ってる様子で積極的に声をかけて商品を売り込もうとはしてこなかった。


 僕が店頭で商品を眺めていても『おいおい、この店(うち)では買うなよ』的な視線を投げてくるし。


 すっごい嫌な感じだが、それでもアイテムを3種類揃えなければそれだけで失格となってしまう。


 だから僕はそんな視線を一切無視して何を買うべきか考える事にした。


 ルークは光だろ。って事は光属性の防御力を上げるアイテムとかいいよな。


 でもHPの残量が勝敗を決めるのなら、HPを一時的にUPするアイテムなんかあればそれでもいい。


 装備品はアズッキーさんのところ以外で購入するつもりないのでパスだな。



 そんな事をアレコレ考えていると、どこからともなく美味しそうな匂いが漂ってきた。


 お腹が勢いよく≪グゥ~~~ッ≫と鳴る。


 その音で今日はまだ何も食べていない事を思い出した。


 昨晩からだと約20時間以上か…。


 僕は空腹感に(あらが)う事ができずフラフラとその出所へ歩みを進める。


 空腹を刺激する美味しそうな匂い。


 その正体は串焼き屋だった。


 店頭に肉類から魚類、野菜まで色んな種類の串焼きが並んでいる。


 そしてメニュー表には値段の横に付加効果も書かれており、それが如何にも異世界らしいなぁと感じるのだった。


 僕がメニュー表を凝視して動かなくなったのを見て、女性店員が「…何か買うつもりですかぁ?」とやる気のない感じで聞いてきた。


 「えっと、イノブタ串と大ホタテ串と…」


 そこでふと疑問に思った。例えばこの串焼きだが、2種類購入したらそれだけでアイテム2種類とカウントされてしまうのだろうか?


 僕は後ろに付いてきてる撮影クルーの1人、鑑定士に尋ねてみた。


 すると鑑定士からは2種類としてカウントされるが、同じ商品なら5セットまで購入可能と回答が返ってきた。


 つまりこの場合、イノブタ串5本までなら1種類とカウントされるわけだ。


 流石に空腹には勝てないのでここで1種類目を選ぶ事になるのだが、さてさてどの付加効果(・・・・)付きの串にするか…。優柔不断には辛いところである。


 僕が少し悩んでいると、映像クルーに同行していたカンノロさんが声をかけてきた。


「ハルト選手、ハルト選手~。既に5分過ぎてますけど大丈夫ですかぁ?」


 言われて初めて気づいた。残り時間が迫っている事に。


「えっと、じゃあこの‘真っ白イカ串’を5本お願いします」


 僕が選んだ‘真っ白イカ串’はその付加効果が【光属性耐性+50%UP】となっていた。


 やっぱりルーク戦の対策としては光属性耐性を上げるほうがいいだろうと判断したのだ。


「はい、5本お待ちどおさま。銀貨2枚です」


「ありがとう」


 銀貨を手渡した僕は受け取った袋からすぐに串を取り出す。


 店員が何か言いかけたが、聞いてる余裕なんてない。だってもう限界なんだから。


 僕はガツガツとむさぼるように5本の串を次々と口に運んだ。


 アツアツでぷりぷりとした‘真っ白イカ’の身がとっても美味しい。


 口の中に広がるジューシーな旨味と歯ごたえがたまらない。


 噛めば噛むほど甘みが広がって、もう言う事無しだね。


 夢中で5本の串を平らげて満足気にしていると、僕の横でカンノロさんが実況を開始した。


『おぉ~っと、ハルト選手が1種類目のアイテムをゲットしました。しかし、この男何を考えているのでしょうか?まだアイテム集めをする時間は12分もあるというのに、既に5本の串を食べつくしています!』


 ん?今、何て言った?まだ時間が12分もあるだと?


 僕は慌てて店員の顔を見る。


「あ~、私はちゃんと伝えようとしましたよ。でもお客さん、話を聞かないから」


 なんでもこの串焼きの付加効果は1本につき5分間で、効果発動時に2本、3本と食べても持続時間が延びる事はない。だから効果が切れる度に1本ずつ食べるのが賢い食べ方だそうだ。


 いや、1本ずつ食べるって。戦闘中にそれはどうかと思うぞ。


 ってか、今更教えてもらっても遅いよ。5本全部食べちゃったし。


 つまり僕にかかってる【光属性耐性+50%UP】はルークと剣を交える頃にはその効果が消えてるってわけね。


5分間(・・・)しか持たない付加効果をもう発動させています。これは明らかな愚行。これを愚行と言わずになんというのでしょうか!?』


 だ~、しまった。貴重なアイテムを無駄に消費してしまった。


 自分の失態をようやく理解し、そしてそれを実況されてる恥ずかしさも相まって、僕はもう頭を抱えるしかなかった。


 そんな僕を余所にカンノロさんの饒舌な実況は続く。


『これは余裕の表れか?それとも単なるお馬鹿なのか?私は彼に聞きたい。何を、何を考えての行動なのか~~!?』


 そしてマイクを向けられたんだけど…。理由なんてあるはずもなく、


「ノープラーン!!」


 僕はただそれだけ叫び、逃げるようにその場を後にした。


 


 1種類目のアイテムを無駄にした事により焦りが募ってくる。


 あと2種類は確実に良いアイテムを揃えなければルークに対抗できないぞ。


 早く、早く手に入れなければ。


 だが、そんな僕の焦りとは裏腹に一向にコレといったアイテムが見つからない。


 それどころか、店仕舞いを始めてる出店もちらほらではじめたのだ。 


 カンノロさんの実況によるとルークが3種類のアイテムを揃え終えたとの事。


 きっとそれが理由なんだろう。


 ってか、それってつまりもともと僕に商品を売る気はなかったって事だよね。


 全く失礼な話である。


 でもこのままじゃ非常にまずいぞ。アイテムを揃えられずに負けとなってしまう。

 

 不満を覚えながらも時間だけが過ぎていった。


 気付けば残り5分。もう駄目なのか…と途方に暮れ始めた時だった。


「お兄しゃん、お兄しゃん」


 この日初めて僕に声をかけてくる人物が現れたのだ。





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