第五十七話 魔女っ娘の正体
朝食が終わると、ノワさんが食後の飲み物を準備をしにキッチンへ出ていった。
とりあえず、朝食も終わったのだからマロンさんとお喋りしようと思ったのだけど、何故かマロンさんはシロップとの会話に夢中だった。
いつの間にかシロップも楽しそうに応対しているし、この短期間にどんだけ打ち解けたのと少し嫉妬してしまうぐらいだった。
まぁ2人が楽しそうだから、お邪魔する事はしないけどさ。
ここにもとっても話したがっている人がいる事、忘れないでね。
そんな感じでマロンさんと話せなかった僕は、タルトさんにずっと引っかかっていた事を聞く事にした。
「あのぉ~、あそこの"魔女っ娘"はどちら様ですか?見たところサクラと同じ年ぐらいに思えるんですけど」
するとタルトさんは「"魔女っ娘"って、あんたね」と言って≪プププッ≫と笑いだしたのだった。
「えっ、どう見ても"魔女っ娘"でしょう」
「いや、魔女っ娘って歳でもないし」
笑いを堪えながらそう言うタルトさん。
歳でもないって言うけど、あの幼児体系は僕には10歳ぐらいにしか見えないんだよなぁ…。
身長もサクラより少し高いぐらいだし。
「でも幼女ですよね。結局誰なんですか?」
「そっか。ハルトは面識なかったんだ。ごめんごめん。今紹介するわ」
そしてタルトさんは魔女っ娘を呼ぼうとして、何かを思いだしたのか小さな声で僕に言った。
「いい。彼女の前で"魔女っ娘"とか"幼女"って口が裂けても言っちゃダメだからね。NGワードだから。絶対にね」
うわぁ。凄い念を押されたぞ。でも絶対に言うなと言われれば、それはつまり言えって事なのかなと思ってしまう。前の世界の余計な知識だな。
「わかりました。絶対に言いません」
「もし少しでも口を滑らせると…」
「滑らせると…?」
≪ニヤッ≫
聞き返すもタルトさんは不敵に笑うだけだった。
いや、怖いんですけど。
何故だか知らないがゾッと寒気を感じた。
でも、何やらヤバいというのは伝わった。
これは下手なこと言わないほうがいいな。うん、言わないでおこう。
そんな僕の反応を見て満足そうな顔をしているタルトさんは、
「じゃあちょっと待ってな」
と言って魔女っ娘に向かって叫ぶのだった。
「パネット~。ちょっといいかしら。ハルトが『あの"幼女"は誰?何で"魔女っ娘"のコスプレしてるの?』って言ってるわよ」
「って、おいーーー!」
ツッコまずにはいれなかった。
「今、言いましたよね。絶対に言うなとか言ってたくせに。NGワードをもろ言いましたよね!しかもあたかも僕が発言したかのように」
「あっ。ゴメンね、テヘッ」
≪テヘッ≫じゃないですよ。反省する気なしでしょ。ってかこの人、絶対に楽しんでるよね。
「第一、"幼女"と"魔女っ娘"とは言ったけど、コスプレとは一言も言ってないですから」
タルトさんに詰め寄るも「ゴメンね~。ってか、ハルト。急いで逃げた方がいいわよ。ほら」と言われ、後ろを振り返ると、下からステッキが物凄い勢いで迫っていたのだった。
「ハァ~。"幼女"と"魔女っ娘"とは言ったんだ」
冷めた声が聞こえたと思った時には、ステッキが見事にヒットしていたのだった。
強烈な一撃が顎に入り、脳が激しく揺れる。
まるでヒヨコがピヨピヨと頭上を回っているみたいで、気絶寸前だった。
きっとスタン状態ってこういう事なんだろうな。
『ステッキってそういう使い方しちゃだめだから』とツッコむ事さえ出来ずに、僕はその場に崩れ落ちるのだった。
それからの魔女っ娘は機敏だった。どこから取り出したのかロープで僕の両手両足を縛ってズルズルと中庭に引きずって行き、そして抵抗できない僕をそのまま木に吊るしあげたのだった。
そしていまだ頭がボーっとしている中、僕の目が捉えたのはこちらに向かってくる無数の魔法だった。
≪ドゴーーン≫
≪ボカーーン≫
≪ズがガガガ≫
≪ヒュルルルル≫
≪ポワワーン≫
見事に全段被弾。
はい、たっぷりお仕置きされました。
◇
「イテテテテ…」
「しばらくはじっとしてて下さいね」
ようやく解放された僕は今地面に座りマロンさんに回復魔法をかけてもらってた。
「それにしても酷いですよ。あんな拷問みたいな。普通死んでますよあれ」
僕はタルトさんと魔女っ娘に向かってブーブーと文句を垂れていた。
「ごめん、ごめん。面白そうだったんでついね」
「いや、あれは絶対にダメなやつでしょ。死ぬかと思いましたよ」
「まぁまぁ、パネットも本気じゃなかったし」
いや、魔法が五月雨の如く襲い掛かってきたんですけど。
「それにほら、回復魔法も途中で飛んできてたでしょ」
確かに5回に1回ぐらい飛んできてたけども。
「いや、そもそも…」
と反論しようとしたところ≪キラリ≫と魔女っ娘の両腕が光るのを感じた。
ヤバい。これ以上は何も言うな。そう本能が僕に告げていたのだった。
「とっ、とりあえずこの方はどなたです?」
「あぁ、そうだったね。じゃあ、パネット。自己紹介しな」
そしてパネットと呼ばれた魔女っ娘が一歩前に出てお辞儀をした。
「お初にお目にかかります。私、パネット・パンナ・モンタータと申します」
「はっ、はぁ。あっ、僕はハルト・サナカと言います」
予想外のしっかりした挨拶に、あたふたと返事をしてしまった僕。
これじゃあどっちが幼いんだかわからないぞ。
「今は王国魔法団の団長をしています。以後お見知りおきを」
「はっ、はい。よろしくお願いします。って、王国魔法団の団長!!」
その肩書きを聞いて思わず立ち上がってしまった。
この世界の王国には戦闘のエキスパート集団である王国騎士団の他に、魔法技術研究を生業とした魔法のエキスパート集団である王国魔法団があった。
王国騎士団の役目が国の安全を守る事だとしたら、王国魔法団の役目は国の発展に寄与する事。
ギルドカードの発明や魔法石を武器や日常品などに活用する技術を生み出したのも王国魔法団だと聞くと、王国魔法団の功績は大きくまさに国家を支えている集団なんだなぁと思う。
「あっ、動いちゃダメですよ」
そう言ってマロンさんが腕をひき、またその場に座り込む僕。
いや、凄い方が今目の前にいるんですよ。
驚いた僕は悪くないよね。
そんな僕らを見ながら彼女は言葉を続けた。
「それと私は21歳だからね。ハルト君よりもお姉さんなのさ。だから発言には十分気を付けるようにね」
急にフランクな話し方になってたけど、今凄い釘を刺されたのは気のせいかな。パネットさんは笑っているけど…うん、気のせいじゃないよね。
命が惜しいので発言には気を付けなければと強く感じた。
ってか、団長さん今何て言った!
21歳だと!!
見えない。絶対に見えない。全くこの世界はどうなってるんだ。実年齢と見た目年齢のギャップがありすぎるぞ。
人は見た目で判断しちゃダメって事はわかったけど、あらためて異世界って恐ろしいなと感じるのだった。
そんな驚いている僕にタルトさんが笑いながら続けた。
「ちなみに私の妹ね」
へっ!?
「えぇぇぇぇぇーーーーー」
声に出すほどの衝撃だった。
またしても立ち上がり、何度もタルトさんとパネットさんを見比べてしまう。
確かに、赤髪や整った顔立ち、雰囲気なんかも言われてみれば似ている。
でも、待てよ。タルトさんの妹という事はズコットさんの奥さんって事でしょ。
それはつまり、ティラちゃんのお母さんという事で…。
頭の中がかなり混乱している。
えっ?えっ?そういう事?
王国魔法団団長は人妻で子持ちで幼女で…。
パネットさんを正体に理解が追い付かない僕は、またしても自然とNGワードを口走ってしまった。
「合法ロリじゃないかーーー」
そしてすぐさま何かが≪ピカッ≫と光ったと同時に、僕の視界はブラックアウトしていくのだった。
◇
十分後。
リビングのテーブルには美味しいお菓子と紅茶が並んでおり、みんなで食後のティータイムを楽しんでいた。
僕はと言えば、あの後直ぐに目を覚まして現在正座にて絶賛反省中だった。
ノワさんがミニテーブルを用意しそこに紅茶とクッキーを置いてくれたが、とても手をつけれるような状況ではなかった。
ノワさんのお心遣いに感謝しつつ、僕は背筋をピシッと伸ばす。背筋を伸ばし重心を引き上げる事で、足への負担が減るように感じるからだ。今はいかにして正座を楽にするか、ただそれだけだった。
ってか、最近正座が多いよな。
皮肉な事に異世界に来て正座に慣れてる自分がいたのだった。
ちなみに今目の前にはパネットさんがいて、彼女の膝枕で眠っているティラちゃんもいた。
こうして見ると、やっぱり親子なんだと感じるものがあった。
更に数十分後。
ティータイムが終わると、仕切り直しとばかりにパネットさんの話が始まった。
彼女が今日タルト邸を訪れたのは『大通り襲撃事件』の裏で行われていたもう一つの事件の報告をする為だったのだ。
一応ここにいるマロンさん以外のメンバーは今回の事件関係者だからね。
報告を受ける権利がある…というか、知っておくべきだという事らしいのだ。
まぁ今回の一連の事件はどこかスッキリしない部分があったから、知れるのであれば是非とも知っておきたいと思った。
そして語られた『ドルチェ城襲撃事件』。
そこで僕は知るのだった。
スィルーの真の狙いを。
サトウユミコ様(@YumikoSato25)より挿絵を頂きました。
タイトルに★印がある話に【挿絵】を追加しています。
是非目次より過去の話もご覧下頂ければと思います。
挿絵がある事でイメージがしやすくなりました♪
また第七話と第十三話分はカラーに差し替えてます。




