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第五十話 救いたい

6/8誤字脱字の修正をしました。

 




 タッタッタッタッタ…。


 走りながら振り返るとサクラだけでなくアモンドもしっかりと後ろに付いてきていた。


 やっぱりあいつは情に厚いな。


 にやけそうになるのを堪えながら、僕は少し走るスピードを落とす。


 そして、すぐ後ろまで近づいたのを確認して2人に考えている作戦を伝えた。


 :

 

「まぁ、先輩を正気に戻すとしたらその方法しかないよな」


「うん。そこでサクラの力がこの作戦の要となるから。大変だと思うけどよろしくね」


「ん。任せるの」


 サクラは両手でグーのポーズをきめて、走るのを止め魔法の詠唱を始めた。



「それとアモンド…」


「うん?」


「ありがとな」


 面と向かって言うには流石に恥ずかしかったから、走りながらサラッとお礼だけ言った。


「よっ、よせよ」


 突然の事に驚いたのか、アモンドの声は少しだけ上ずっていた。 


「まぁ、なんだ、俺も先輩を救いたいってのは同じだからさ」


「うん。絶対にズコットさんを救おう」


 僕らは並走しながら、拳をコツンと付き合わせた。


 これでお互いスッキリした感じで挑めそうだ。


 そして僕らは目の前の戦いに飛び込んでいった。







 三差路の一角には大きな時計台があった。どこからでもよく見えるその姿は、このドルチェ城下街のシンボルとなっていた。レンガ造りの建物が建ち並ぶ街並みにもあった西洋風の美しい時計台。


 そんな時計台が今しがた崩壊した。


 狂戦士は右手に片手剣、左手には魔剣を握り戦っている。所謂二刀流だ。その剣から放たれた斬撃が直撃し、見るも無残な姿となってしまったのだ。

 

「無事かー」


 ルークは剣を振るいながら声をかけている。時計台には王国騎士団の弓兵や魔導士がいて遠距離攻撃を行っていたからだ。


 しかし、ルークの叫びに返事は返ってこなかった。崩壊に巻き込まれたのだ。恐らく全員無事ではないのだろう。



「やめろー。これ以上罪を重ねるな!!」


 だがルークの言葉は狂戦士の耳には届いていない。


 狂戦士は戦闘を愉しむかのように自分を取り囲んでいる団員に刃を向けて、1人また1人と団員を切り倒していった。


 そしてとうとう狂戦士と対峙しているのはルークだけとなった。


 次々に倒されていく部下達を前に、こみ上げてくる怒りがルークの冷静さを奪っていく。


 狂戦士は相手が1人になったのを感知したのか、突然右手の片手剣を地面に突き刺し左手の魔剣一本で構えをとった。


 冷静に考えれば怪しい行動だ。でも頭に血が上った状態のルークはそれを好機ととらえ、瞬時に懐まで踏み込んで行ったのだ。


 だが、それはやはり狂戦士が仕掛けた罠だった。


 ルークの薙ぎ払いを左手の魔剣で受け止めながら、狂戦士は右手で彼の腕を思いっきり掴んだ。


 その瞬間、ルークの体がガクンと揺れ、足の踏ん張りが効かなくなり前のめりに態勢が崩れたのだ。


 そして狂戦士は掴んでいた手を放し、両手で魔剣を頭上高く構えるのだった。


 ‘しまった!'と思った瞬間、後方からルークの耳に声が飛び込んできた。


「こっちに剣を向けろ!」


 本来なら頭上を守るべきところだが、ルークは自然とその声に反応し剣を後ろに向けた。


≪ズド―――ン≫


 何かが剣に命中し、その勢いに押されてルークは体ごと吹き飛んだ。


 そして狂戦士が振り下ろした魔剣は誰もいない地面へ突き刺さったのだった。







「よっしゃー。間に合った」


「なんとか上手くいったね」




 僕らが狂戦士(ズコットさん)達の姿を捉えた時、ルークが大ピンチだった。


 僕はすぐに風の矢(ウインドアロー)を唱えた。


 今にも振り下ろされそうな魔剣を狙うよりも、確実に当てられるルークを狙ったほうがいい。


 咄嗟にそう判断し、ルークに『こっちに剣を向けろ!』と叫んだのだ。


 そしてその思惑通り、スピード重視の細長い風の一矢が剣ごとルークを吹き飛ばして、見事に魔剣の攻撃をかわす事が出来たのだった。




 近づきながら僕は風の矢(ウインドアロー)を一発、また一発と狂戦士(ズコットさん)へ向けて放った。


 再び双剣を構え素早く全弾を弾き飛ばす狂戦士(ズコットさん)。ダメージは全く与えられていないだろうが、注意を引き付けるには十分だった。


 僕らの攻撃を受けきった狂戦士(ズコットさん)から、お返しとばかりに斬撃が飛んでくる。しかし、それはアモンドが『雷動拳』をぶつけ相殺させる。


 そうやってお互いが攻防を繰り広げながら、ほんの数メートルの距離まで近づいた時、狂戦士(ズコットさん)を中心に光のサークルができて地面が光輝きだしたのだった。



「地面がピカピカなのよ」


 それはサクラが唱えた『ホーリーフィールド』の魔法だった。


 『ホーリーフィールド』は半径150メートルの範囲を光のフィールドに変え、侵入者が聖属性の場合はその効果を上昇させ、闇属性の場合はダメージを与える魔法だ。


 正直、魔剣からあふれ出す闇のオーラが凄いため、ダメージを与える事は期待できない。

 

 それでも自分達にかかっている『ホーリーウェポン』や『光の加護』の効果が上がるという意味では『ホーリーフィールド』を唱えておくメリットは十分にあるのだ。


 

 地面に光のフィールが広がり、体が軽くなった。そして僕らは瞬時に狂戦士(ズコットさん)との間合いを詰めた。


 再度放たれようとしていた斬撃を阻止するために、片手剣をアモンドが双爪で掴み、魔剣を僕がレイピアで受け止めた。

 そしてアモンドは器用に双爪を動かして片手剣を軸に体を回転しがら連続して蹴りを放った。両手を塞がれてる狂戦士(ズコットさん)はその蹴りをかわす事ができず、頭・胴体・太腿と蹴りがヒットしていった。

 アモンドのアクロバティックな動きが狂戦士(ズコットさん)の目を奪う。そしてその隙を見逃さずに僕はレイピアから風の刃(カマイタチ)を発動させたのだった。



≪カランカランカラン…≫


 狂戦士(ズコットさん)が腰に携えていた魔剣の鞘が吹き飛び地面に転がり落ちた。


「サクラ、頼む」


「わかったの。『光の鎖(ホーリーチェーン)』」


 サクラが魔法を唱えると地面から10本の光の鎖が現われた。


 それにあわせて僕は魔剣を思いっきり上へと弾き、がら空きとなった左脇を急いでくぐり抜ける。

狂戦士(ズコットさん)がすぐに魔剣を振り下ろしてきたが、そこはサクラの光の鎖(ホーリーチェーン)がいっせいに左腕と両足に絡みつき動きを阻止した。右腕の攻撃も引き続きアモンドが対処してくれている。そんな2人の協力もあって、僕は先ほど飛ばした魔剣の鞘を無事に回収する事ができたのだった。



 魔剣から解放する方法は魔剣を鞘に収める事。

 前回はギーヴの実力が低かった事もあり、魔剣を取り上げたうえで鞘に収める方法をとったのだが今回はそうはいかない。なんせ相手は狂戦士(ズコットさん)だ。魔剣を手放す事なんてまず考えられないし、取り上げる事も困難だろう。そうなると、こちらがとる方法は限られてくる。持ったままの状態で魔剣を鞘に収める。多少強引な気もするが、それがズコットさんを救う最良の方法だと思ったのだ。



 魔剣の鞘を確保した今、第一目的は達成した。あとは2人が狂戦士(ズコットさん)を抑えている間に、僕が魔剣を鞘に収めさえすれば作戦終了だ。


 振り向いて狂戦士(ズコットさん)の元へ戻ろうとした時、突然彼の右手から片手剣がこぼれ落ちた。否。意図的に落としたと言うべきか。


 突然の出来事にバランスを失うアモンド。それを見た狂戦士(ズコットさん)はすかさず右手でアモンドの肩を掴みにかかったのだった。


 この光景、ルークの時と似ている…。


 そう思った時には、あんなにアクロバティックに動きまわっていたアモンドが力なくガクンと崩れていた。


 そして狂戦士(ズコットさん)はそのまま力任せにアモンドを放り投げて、すぐさま右手に魔剣を持ちかえて光の鎖を切り始めたのだった。



 クソッ。これでは作戦を進められない。それに何故アモンドは急に力なく崩れたのか?その原因がわからなければ迂闊に近づく事もできない。僕はその場に踏みとどまって、どうすべきか考えた。



 すると後方から声が聞こえた。


「狂戦士の右手には注意しろ」


 振り返ると、そこにはルークがいた。


「私も先ほど同じ様に掴まれて崩れ落ちたからな。間違いないと思う」


 ルークは何かを確信したといった表情をしている。ってか、いつの間に近づいたんだ。よく見ると、微妙に肩で息しているし。まだ辛いんじゃないかと思ってしまう。



「もう動いて大丈夫なのか?」


「お蔭様でな。礼を言わせてもらうよ」


 紳士的に一礼するルーク。そう言ったところはきっちりとしてるんだな。



「先ほどの風の矢(ウインドアロー)は君だったんだろ?借りが出来てしまったな」


「いや、それは別にいいんだけど。まぁ、でも無事で良かった。それよりあの右手に秘密があるのか?」


「そうだ。恐らくあの右手に掴まれるとHP吸収(ドレイン)されてしまう」


HP吸収(ドレイン)だって!?」


「あぁ、間違いない。狂戦士が纏っている鎧の右手甲部分に魔法石があって掴まれた時にそれが光ったんだ。その直後に急激な体力の低下を感じ、一瞬意識を失いかけたからな。確実にHP吸収(ドレイン)だ。現にHPが半分持っていかれたし」


「そうだったのか…」


 あの右手にそんな秘密があったとは…。HP吸収(ドレイン)なんて使われてたら、相手を弱らせる事も難しいぞ。しかもHPが半分も減るなんて。僕は【アイテムボックス】に手を伸ばした。


 するとそんな僕の心情を見透かしたようにルークが言った。


「HPの心配はしてくれなくていいぞ。私クラスになると回復ぐらい自分で出来るからな」


 ピカ―っと手の平が光っている。恐らく光属性の回復魔法だろう。


「あぁ、そーですか」


 僕は取り出しかけてたギガポーションを素早く元に戻す。


 何だか心配して損した気持ちになり、疲れがたまる。



「それにしても狂戦士(あいつ)は何者なんだ」


 目の前で4本目の光の鎖を切り裂いてる狂戦士(ズコットさん)を見てルークが言った。


 そうか、ルークは狂戦士(ズコットさん)の正体をしらなかったな。アモンドには忠告されたがルークには知らせた方がいいだろうと判断し、正体を伝える事にした。



「実はあの正体はズコットさんなんだ。スィルーって悪魔が、魔剣とティラちゃんを利用してズコットさんを闇堕ちさせたんだ…」


「なっ!?ズコットさんだと!!それにスィルーがからんでいるとは…」


 流石のルークも驚愕の表情となっていた。


 ってかスィルーの事知っているのか?そんな口ぶりだったぞ。


 そう言えば“フェレロシェ鉱山”での一件はマロンさんが国王にも報告済と言ってたな。王国騎士団副団長だったらスィルーの事を知っていても不思議ではないか。



 そうこうしているうちに狂戦士(ズコットさん)は5本目の光の鎖を切り裂き終わっていた。

あと半分か。再び動き出す前に次の策を講じなければ…。


 そんな事を考えていると、「おい、‘ハズレ勇者'」とルークが声をかけてきた。


 ん?‘ハズレ勇者'だって?あぁ、そうか。ルーク(こいつ)は僕の事をそう呼ぶんだったな。こんな状況でイラッとさせるなよ。


「おい、`ハズレ勇者'!」


 そんな僕の心情なんておかまいなしにルークはなおも話しかけてくる。


「なんだよ。こっちは今、この状況をどう打破するか考えているところなんだよ」


「だからその件だよ」


 何か妙案でも浮かんだというのか?とりあえず耳をかす事にした。


「どういう事だ?」


「さっきのお前たちの狙いはいい線いっていたと思う。魔剣を抑えるには鞘に収めるしかないからな。今回もそれでいこう」


「いやでもHP吸収(ドレイン)を使ってくる限り、先ほみたいな状況は作れないぞ」


「だったら、あの右手甲の魔法石をまず破壊すればいい。あそこにいるお嬢ちゃんは`光の勇者'様なんだろ?」


 ルークは少し離れた位置にいるサクラを指さした。


「そうだけど、何でわかったんだ?」


王国騎士団(私たち)の情報網を甘くみるなよ」


「そうか。まぁ、深くは聞かないけど。それでどうするんだ?」


「あの全身を覆っている鎧は闇属性の魔鎧だ。だったら聖属性の魔法。例えば光の召喚魔法などで攻撃すると破壊できると思う」


 確かに魔鎧を破壊する事ができれば状況は好転するだろう。


 なるほど。‘光の勇者'であるサクラの力があれば可能というわけか。


「でもいいのか?僕たちと手を組んで。あんた僕の事嫌いだろ」


「あぁ、大っ嫌いだね。マロン様に上手く取り入りやがって…。でも、まぁこの際私怨はなしだ。解決が最優先だからな」


 いや、私怨って。やっぱ恨まれてるんだ。ってか、一方的なんだよなぁ。


「それに、私はズコットさんに昔お世話になったんだ。救える可能性があるなら、そうしたいわけさ」

 

 そんな風に言われたら、何も言えないよね。だって結局のところズコットさんを救いたいって思いは同じなんだからさ。


「じゃあ、僕らはサクラの援護をするんだな」


「そうだ。君でも弾除けぐらいにはなるだろうからね」


「なんで弾除けなんだよ!?」


「君が`ハズレ勇者'だからさ。でも、安心しろ。君が死んでも、マロン様の事は私が責任持って幸せにするからな」


「いや、死なねーし。それにマロンさんは渡さないし」


 知っていたけど、僕はルーク(こいつ)が苦手だ。


 でも、悪いヤツじゃない。


 以前タルトさんが言ってた事も、ちょっとだけわかったような気がした。



「では、お前はお嬢ちゃんにこの事を伝えてきてくれ。狂戦士(ズコットさん)は私が足止めしておくから」


 狂戦士(ズコットさん)は既に8本の光の鎖を切っていた。残すはあと2本。でも、その2本はまだ左腕と足にしっかり絡みついている。これならルーク1人でもしばらくは対応できるだろう。


「わかった。今度は冷静に戦えよ」


「うるさい。私を誰だと思っているんだ。王国騎士団・副団長ルーク・マデスだぞ」


「あぁ、そーですか」


 うん、やっぱり僕はルーク(こいつ)が苦手だ。










 


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