第五話 鍛冶屋へ行こう★
2016年7月19日 挿絵を追加しました。
2015年12月17日 誤字脱字を修正しました。ご指摘ありがとうございます。
翌朝。朝食を終えるとそのまま鍛冶屋へ向かった。
チョコさんに教えてもらったのだが、鍛冶屋では武器・防具の販売から素材を用意すればオーダーメイドまで受注してくれるという。
鍛冶屋なんていかにも異世界って感じで胸が高鳴ってくる。
やはり冒険者としてギルドで依頼を受ける前に装備を整える必要あるよね。
宿屋を出て15分程歩いたところで商業地区に着いた。
この街にも鍛冶屋は数店あるとの事だが、正直今の僕にはその良し悪しはわからない。だから直感で選ぶ事にした。
すると商店街の少し外れにポツンと建っている鍛冶屋が目に入った。完全に客通りが途絶えた位置にある。でも、そんな場所だからこそ掘り出し物があるのかもしれない。
僕は期待を胸にその鍛冶屋を選択した。
剣と盾と木槌が描かれている大きな看板は少しボロボロだけど‘いい品揃えてます’と言った感じがした。
いざ店内入ってみると武器や鎧が所狭しと展示されていて、カウンター前にはアクセサリー類も多数飾られていた。
「いらっしゃい」
小柄だが恰幅がよくいかにも鍛冶やってますと言った感じの店主が愛想良く迎えてくれた。
店主はアズッキーさんといい元々はドワーフの戦士として冒険者をやっていたそうだ。
これは色々と助言も望めそうだな。まだよく知りもしないのに、この店で正解だという気持ちになっていた。
「武器と防具を買いたいのですが、はじめてなものでよろしければアドバイスをお願いします」
「おう。任せときな」
アズッキーさんは二カッと笑う。
そして自分にあった武器を選ぶためにまず身体測定を行った。
身長178㎝、体重68㎏…召喚前とほぼ変わらない。強いて言えば少し筋肉質になってる事。これはお城で1か月鍛えた賜物だった。
そしてステータスを教えて適性を見てもらう。
「う~ん、これはまたある意味凄いな。レベル13あるのにHP、MP以外が低すぎる。兄ちゃんの場合職業が“勇者シリーズ”なので武器はかなり広範囲で選ぶ事ができる。ただ、ステータスのバランスが悪すぎるからなぁ…」
あぁ、やっぱりそこがネックですよね~。
お城でも剣・槍・弓・杖と色々試したが、どれもそこそこ使える程度で最後まで極めるきっかけを掴めなかったのだ。
「HPが高いから前衛に向いてると思うが、攻撃力と防御力が致命的なんだよなぁ~。かと言ってINTが高いから後衛にまわってもMPが上昇する見込みなしときてる…、ふむ…」
かなり悩んでいるアズッキーさん。真剣に考えてくれてるんだなぁ~と好意的に思えた。
【イラスト:サトウユミコ様(@YumikoSato25)】
そして待つ事数分。
アズッキーさんは店の勝手口を開けて、手招きをしながら言った。
「兄ちゃん、店の裏にある演習場までついてきてくれないか。ちょっと試してほしい事がある」
僕は言われるままアズッキーさんの後について演習場まで行った。
演習場につくとアズッキーさんの指示で魔法を唱える事となった。
『風の矢』
風の矢が一直線に放たれ、30m先にある的の中心を射る。
かなり加減したつもりだが、まとの中心はきれいに抉られていた。
「ほぉ~、INTが高いから威力も凄まじいな。これだけで中級魔法クラスの威力があるんじゃないか。
それよりも驚きなのは命中力だな。普通30mも離れていたら誤差が出てもおかしくないのに、寸分もたがわず射たもんな」
褒められると素直に嬉しい。でも命中力がここまで上がったのはそれなりの理由があったのだ。
◇
1か月前。最初の魔法の講義の時。まず試しに風の矢と風の盾を唱えるように言われた。
何も考えず唱えてみると風の矢は明後日の方向に飛んでいき2階建ての小屋を全壊にし、風の盾は盾というよりも、直径5m程の薄い壁を作ってしまった。
講師も大変驚いていたが、INTが高い為それだけで説明がついた。
ただ、力の制御が全くできておらずこのままでは暴走しかねないとの事で僕の魔法講義はただひたすら魔力の制御に費やされたのだった。
お蔭で命中力も神がかり【魔力制御】【命中率50%上昇】のスキルも取得できたのである。
◇
「いやぁ~【魔力制御】と【命中率50%上昇】のスキルはだてじゃないってわけか。そう言えば【MP回復(小)】の効果はどの程度であらわれるんだ?」
「10秒でMPが1回復します」
それを聞いたアズッキーさんは決まったという表情で再度店内へ僕を促した。
「兄ちゃんの場合風の矢だけでも威力抜群なので後衛にまわってもいいと思うが、HPも高いし強力な風の盾もあるから、やはり前衛のほうがいいと思う。
そこで一つ提案があるんだが武器をオーダーメイドする気はないか?」
「え?オーダーメイドですか。作ってもらえるのであれば是非お願いしたいとこですが…、でもオーダーメイドって確かかなり高額なんですよね」
「そうだな。すすめておいてアレなんだが値段は張る。概算でも金貨6枚ってとこだ」
「金貨6枚ですか!試案のしどころですね。でも世界に一つしかない僕専用の武器…とても惹かれるなぁ~」
「そうさ、世界に一つしかない兄ちゃん専用の武器!男のロマンさ」
男のロマン。正にその通りだと思った。
「ですよね!専用武器って言ったら男のロマンですよね~。決めました、是非オーダーメイドお願いします」
「おぅ、承った。代金は受け渡し時によろしくな。ただ今回のオーダーメイドに欠かせない素材ってのがあってそれを持ってきてもらう必要がある」
「どんな素材ですか?」
「カマキリナイトの刃1枚・羽3枚と魔法石(中)2個だな。どちらも街の西側にある‘パンドールの森’で手に入る。カマキリナイトはLv13でも太刀打ちできる相手だし、魔法石(中)もカマキリナイトが落とす場合があるぞ」
「なるほど、では‘パンドールの森’へちょっと行ってきますね」
「おう、せっかくだからカマキリナイトの討伐依頼を出しとくよ。ギルドへ寄ってから森へ向かいな。兄ちゃんにとっても一石二鳥だろ。それとコレは餞別だ」
そう言ってアズッキーさんは銅で出来た剣と革製の鎧を手渡してきた。
アズッキーさんの優しさに涙が出そうになる。
「本当にありがとうございます。急いで調達してきますね!」
鍛冶屋を出てギルドで‘カマキリナイト(5匹)討伐(対象ランクE)’の依頼を受けた。
その際冒険の心得も多少レクチャーしてもらった。
ギルドカードについてだがソロやパーティーで討伐したモンスター情報も記録されていくとの事だった。
てっきり討伐の証拠として角や牙など持ち帰る必要があると思っていただけに意外だった。なんて便利なんだ。
まぁでもモンスターから剥ぎ取れる素材は高額で買い取りできるし、それが街の発展にもつながるとの事だったので積極的に持ち帰ろうと思う。
幸いな事に僕には【アイテムボックス】があるからね。
【アイテムボックス】………生物を除きあらゆるものを格納する事が出来る。 100種類まで収納でき、内部は時間が止まっている為食べ物でも腐る事はない。
その後食料・ポーション・テントなど冒険に必要なアイテムを一通りそろえてドルチェの城下町を後にした。
僕にとって人生で初めての冒険が幕を開けるのだった―――。