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第四十三話 捕縛

 



 今宵も見回りが始まった。

 僕らが巡回しているのはスラム街。貧困層、無職者、犯罪者などの居住区となっていて治安が悪い地区だった。そしてこのスラム街は連日被害者が出ている事から犯人を発見できる確率が一番高い場所であった。

 もちろん、昨日までも多くの冒険者がこの地区の巡回にあたった。しかし、ことごとく返り討ちにあいミイラ化遺体となってしまっていたのだ。


 この日はアモンドの他にタルトさん、ズコットさんが一緒だ。冒険者は4人以上での巡回が義務付けられたのだ。ちなみにランクAの冒険者2人を含むこのメンバーなら対処できるだろうとギルド側の推薦で僕らが受け持つ事となった。



「いやぁ~、久々にタルト先輩とご一緒できて俺は嬉しい限りですよぉ~」


「あんた少しは強くなったんでしょうね?」


「そりゃあもちろんですよ。ちなみに今はランクCでもうすぐBになりますよ」


「へぇ~、頑張ってるじゃん。じゃあ、今日は少し頼りにしてるわね」


「はい~~~」



 タルトさんに会って嬉しそうにアモンドがずっと話しかけている。何でも2年ぶりの再会らしい。


「…アモンドはタルト姉のファンだからなぁ」


「そうなんですね。ってか、みんな知り合いだったんですね。世間って狭いなぁ~と感じちゃいますよ」


「…そうだな。思わぬところで思わぬ繋がりがあって。だからこそ出逢った人との繋がりは大切にしたいよな」


「ですね」


 以前の世界で僕は人との繋がりをそんなに考えた事がなかった。当たり前の様に家族がいて、気のあう友人が数人いさえすればそれで十分だと思っていた。自分から積極的に輪を広げる必要はない。必要最小限でいいんだ。そんな風に考えていたし、それで不自由はなかった。


 でも、この世界に来て家族もいなければ友人もいない状態で始まった生活の中で人との繋がりの大切さを痛感した。そしてそれがかけがえのない財産になるって事も。だからズコットさんの言った事が今の僕ならとてもわかるんだ。本当に出逢った人との繋がりはどんなものでも大切にしたいと。



 そんな風に少し和やかな感じで見回りをしていると突然ギルドからメールが届いた。



---------------


見回り班各位へ。


食堂街路地裏にてミイラ化遺体(3体)発見


各自警戒を強める事

            ギルド長

---------------



 やはり今日も出現したか。西地区にある食堂街と東地区の外れにあるスラム街ではかなり距離が離れている。でも、神出鬼没な犯人なだけに油断はできない。今までの傾向から襲撃現場もまばらだしね。僕は【危険感知】スキルの反応に神経を集中させた。



「それにしても犯行は相変わらず路地裏ばかりみたいね」


「そうですね。こうやって集中的に路地裏を歩いていればいずれは出くわすかも…」



 その時、突然前方に背筋を凍るような殺気が立ち昇り敵の反応が現われた。僕らは急いで距離を詰める。

 そこには禍々しいオーラを纏った犯人がいて丁度ローブを羽織った通行人3人組に切りかかっているところだった。



≪ガキ――ン≫



 刃と刃がぶつかる音。それには流石の犯人も驚いた様で一瞬動きが鈍くなる。まさか攻撃を受け止められるとはといった感じか。

 

 通行人は≪バサッ≫とローブを脱ぎすて、そこから現れたのはドルチェ王国の印が刻んである剣でそれが犯人の一太刀を受け止めていたのだった。そう、ローブを羽織っていた通行人とは王国騎士団だったのだ。



 今回の作戦は王国騎士団が一般人に紛れて犯人を誘いだすというものだった。

 と言っても、その作戦は自分達だけで手柄を全てものにしようというのがみえみえで、現に冒険者に与えられた任務はそのサポートでしかなかった。

 犯人を発見した場合も即座に報告し追跡はしても積極的な戦闘行為は行わない事、王国騎士団の戦闘中には手出ししない事、犯人の捕縛及び犯人が所持している片手剣(ミーティングで魔剣と断定)の回収は王国騎士団に任せる事を指示されたのだ。


 王国騎士団に主導権を握られるとギルドの立場は弱くなる。それは仕方のない事らしいけど、みんな納得はしていなかったはずだ。ミーティングではギルド長の手前誰も反論をしなかったが、心の中では自分達の手で解決してやるといった感情が部屋全体でうごめいていたからね。

 

 

 目の前で応戦している王国騎士団3人組の中には副団長のルークもいて、彼は他の団員2人に指示を出しながら連携攻撃を仕掛けていった。団員2人が犯人の片手剣を引きつけるように攻め、その合間にルークが本体へ攻撃を加えていく。そうした3人の多彩な攻撃は犯人を次第に防戦一方へと追い込んでいった。


 言っても犯人はランクEの冒険者。いくら魔剣の力があったとしても王国騎士団相手にはそう上手くはいかない。今までは闇討ちで一般人や冒険者を短時間に葬ってきた犯人でも、統率がとれ実力も確かな騎士団の前には長期戦は必須だった。そうなると実力の差がはっきりと現れてくる。


 

「これは俺らの出番ないみたいだな」


 アモンドがそんな事を言い、タルトさんは一応ギルドへ犯人発見のメールを送っていた。


「くっそぉ~。俺の手で捕まえるはずがぁ~」


 アモンドは本当に悔しそうだ。うん、その気持ちはわかるよ。


「…だが、油断は禁物だぞ」


 ズコットさんが準備だけは怠らないように言う。


 そう、犯人は神出鬼没の切り裂き魔。当然色んな手段を用意しているはずだ。

 見ているだけで終わってしまうかもしれないけど、いつでも加勢できるようにしておかなければ。



 そうこうしているうちに前方の戦闘に動きがあった。


 光属性魔法の手練れで構成されている王国騎士団3人組が数で上回っている分、徐々に相手の闇を抑えていった。光と闇の2属性は相反する関係であり、その相反する属性は互いに弱点となる。

 

 そして闇属性魔法と光属性魔法が激しくぶつかる中、ついにルークの一突きが犯人の左太腿を捉えたのだった。鮮血が飛び散り犯人の動きが極端に悪くなる。


「これで終わりです」


 ルークが剣を頭上に構えたところで、犯人は懐から何かを取り出し思いっきり地面に叩きつけた。



≪ピカ―――≫



 その瞬間に辺り一面に眩い光が広がっていく。そしてそれは瞬く間に視界を奪っていった。


「くっ、目くらましか!!」


 悔しそうにルークが叫ぶがそれも後の祭り。視界を奪われ攻める事ができなくなった3人を尻目に犯人は撤退を始めたのだ。


 だが、光が広がる中でも僕ら4人には犯人の行動が丸見えだった。

 僕らはサングラスを外しいっせいに駆け出した。そう僕らに目くらましが効かなかった理由はサングラス。相手が目くらましを使う事は予想ができたので、今回はサングラスを用意してその対策をしていたというわけだった。



 目の前の犯人は素早くマンホールの蓋を開けそのまま中へと潜っていった。


「そういう事か」


 犯人の逃走経路がわかり納得がいった。確かに下水道を使えば人目をさけて王国内をくまなく移動でき、また下水道ならお城を迂回する必要もないので短時間での移動が可能となる。考えてみればどうして見逃していたのかと思える手段だった。



「じゃあ、後は私達に任せなさい」


 ルークの横を駆け抜ける際にタルトさんが声をかける。それに乗じ僕も「絶対に捕まえてみせます」と言ったところルークの表情がガラリと変わった。


「その声はハルトか。なんでお前は見えてる!くっそぉ~、こんな目くらましなんて!貴様なんかに負けるかぁ」


 必死に目を抑えながら恨み節を言われてもなぁ。ちょっと哀れに思いながらもそれには返事する事なく通り過ぎて行った。



 素早く下水道を降り生活魔法‘蛍火'で辺りを照らしながら追跡を開始する。

 今までは犯人の尻尾もつかめずに追跡など不可能であったが今回は違う。地面に点々と付着している血痕。そう先ほどルークの攻撃で負ったものだ。その血痕が犯人への道筋となっていた。この点に関してはルークに感謝だった。


 そして数分で目の前に人影が見えてきた。足を引きずりながらも闇のオーラを纏い逃げている手負いの犯人。

 王国騎士団からは冒険者による犯人捕縛を禁じられていたが、今更そんな事は関係ない。この状況で犯人を取り逃したとなればそれこそ一大事だ。


 犯人の後姿を捉える事ができる距離まで近づき僕とアモンドでありったけの‘蛍火'を犯人の周囲に向けて放った。

 下水道の通路が犯人を中心に照らされる。犯人も直ぐにこちらへ向き直り右手で魔剣を構え攻撃態勢を整えた。がしかし、タルトさんの忍術のほうが一足早かった。



『影縫い』


 犯人の影に‘くない'が数本突き刺さり影が動かなくなる。するとそれにあわせた様に本体の動きもピタリと止まった。


 しかしすぐに魔剣から地面に向け衝撃波が放たれ、その衝撃波は地面に刺さっている‘くない'を次々と弾き飛ばしていった。そして影が自由になると同時に本体も動きだす。結局動きを封じられたのはほんの3秒程だった。

 

 だがそれで十分だった。僕らが欲しかったのはその僅かな時間なのだ。

 ズコットさんはその僅か3秒で犯人に詰め寄り剣を握っている手元に鋭い一閃を放った。


≪スパ―ン≫


 魔剣を握ってる右手が鮮血を吹いて宙に舞う。ズコットさんの一撃は見事に右手を切り落としたのだった。

 魔剣を手放した犯人は意識を失いその場に崩れ落ちた。そして急いで魔剣を鞘に収めると、禍々しいオーラは完全に消失したのだった。


『捕縄術』


 倒れている犯人をタルトさんの忍術で捕縛する。

その際に切り落とした右手はギガポーションで治療しておいた。アモンドは「犯人に情けをかける必要はない。治療なんてやめておけ」と言っていた。でも切断直後の今ならまだ治せるから。犯人にどんな処分が下されるかわからないが、それでも彼の今後の人生を考えると、治せるのに何もしないなんて僕にはできなかった。


 連続殺人犯の最後としては呆気ないように感じるかもしれないが、この日までの冒険者の努力や犠牲者の事を考えると決してそんな事はなかった。みんなの協力があってこの結果に繋がったのだ。それは全員で勝ち得た勝利だった。


 地上に戻り捕縛した犯人と魔剣を王国騎士団に引き渡した時、多くの人々に拍手喝采で迎えられた。事前にメールで報告をしていた事もあり既に『連続殺人犯逮捕』のニュースは国中を駆け巡っていたのだ。


 深夜にも関わらず街は歓喜に湧いていた。

 街のあちこちで人々が踊ったりお酒を酌み交わしたり、それはまるでお祭り騒ぎだった。

 感謝の言葉、労いの言葉を受けながら僕らもその輪の中に溶け込んでいくのだった。


 ちなみに王国騎士団からは直ぐギルドに対し犯人捕縛に関する苦情があったそうだ。だが、ギルド長も上機嫌で気にする事はないと言っていた。冒険者の手で確保できた事がよほど嬉しかったのだろう。

 そしてこの日はギルド長もギルド職員も一緒に明け方まで飲み明かし喜びを分かち合ったのだった。




 




「まだ終わっていないというのに呑気なものですわねぇ~」


 王国内の様子を遠くから眺めている女性が呟いた。


「でも、それも今だけですわよぉ~。明日あなたたちは…。オーホッホッホ…」


 静まり返った周囲には彼女の笑い声だけが不気味に響いていた。










 

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