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第四十一話 緊急招集

 



 それは朝一番で届いたメールだった。


---------------


冒険者各位へ。


緊急の案件が発生した。

本日12時にドルチェ大聖堂まで集合の事。


対象者

Dランク以上の冒険者

PTの場合はリーダーのみ参加可


※不参加の場合 要連絡

            ギルド長

---------------



 Dランク冒険者である僕も対象か。


 それより僕はソロだから関係ないけど、パーティーを組んでればリーダーだけの参加でいいんだ。緊急招集自体が初めてだからまだ勝手がよくわかってないんだよなぁ。




 少し面倒くささを感じながらも、怠惰な朝を過ごしていると部屋のドアがノックされた。


 誰だろうと思いドアを開けるとそこにはタルトさんがいて僕を迎えに来たとの事だった。


 何でも放っておいたら寝坊で遅刻するんじゃないかと思ったらしい。


 って、失礼な。遅刻はするかもしれませんが欠席はしませんからとツッコんだところ、緊急招集には暗黙のルールがいくつかある事を教えられた。


 欠席・遅刻もその一つで、やむを得ない事由がある場合以外はペナルティーが発生するのだとか。


 罰金はもちろん、ランク引き下げもあり得るとの事だから、緊急招集は無碍(むげ)にできないなぁと思った。



 タルトさんのお迎えに感謝しつつ、2人でドルチェ大聖堂へ出発した。


 ちなみにタルトさんはPTリーダーとして1人で参加するとの事だった。


 サクラ達はどうしたのかと尋ねたところ、サクラとノワさんは一時的にタルトさんのPTに加入するのだとか。


 なるほど、その手があったか。


 僕も入れてもらってれば良かったかな…と思いつつ、そう言えばシロップはどうなるのだろうかと疑問に思った。


 するとタルトさんにギルドカードを確認するように言われた。




---------------


ランク:D

名前:ハルト サナカ

種族:人間

性別:男

レベル:33

ポイント:925GP


≪パーティー情報≫

PTリーダー:ハルト

メンバー:シロップ


PTランク:F


---------------




 うぉ!何か新しい項目が追加されている。


 驚いてる僕にタルトさんはノワさんが手続きをしたと教えてくれた。


 シロップの件を全面的に任せたとは言え、PT登録まで行ってくれてたとは…本当に感謝しかなかった。


 ちなみにPTを組むメリットとしては例えばPT対象の依頼を受けれるようになったり、王国直々の依頼がきやすくなったり、PT人数に応じて獲得経験値が按分される事、メンバーの特性に合わせた役割分担が出来て戦闘スタイルが大幅に広がる事等があげられる。


 でも一番大きなメリットはPT対象依頼の報酬だろう。


 報酬金、獲得GPの高さが凄く魅力的なのだ。



 実は僕も何回かPTを組まないかとお誘いを受けた事があったが、その全てを断っていた。


 人見知りが激しい事も理由の一つだが、実は自分がPTリーダーとなり自分のPTを持ちたいという願望も密かにあったのだ。


 まぁソロでも一緒に協力して冒険をする事は可能だから、今までそうしてきたんだけどね。


 そうか、僕はもうソロじゃないんだ。


 自分のPTを持てた事に喜びを感じつつ、シロップの為にもいっそう責任感もってやっていかなければと気合いが入った。




 ドルチェ大聖堂の入り口で受付を済ませ、係員に従って会場へと案内された。


 僕らが通されたのは小聖堂であったが、それでも収容人数は200人の規模で既に大半の席が埋まっていた。


 席に着くと今回の招集内容の概要が書かれた書類が置かれていた。


 12時までまだ時間があった為、その間で内容を確認した。


 どこまで情報開示されているのかわからないが、今朝の時点で既に犠牲者が60人にも上っていたのは驚きだった。


「ミイラ化ってのが気になるわね…」


 同じく書類に目を通していたタルトさんは眉間にしわを寄せ呟いた。



 12時になりギルド長が壇上に上がり、早速緊急招集の本題に入った。



・被害者に接点がなく、対象も老若男女である事から無差別殺人である事


・今のところドルチェ城下街だけの襲撃である事


・ミイラ化した遺体には全て剣による切り傷跡がある事


・ヴァンパイアによる襲撃の可能性


 :

 :


 その内容は先日アズッキーさんに聞いたものと概ね一緒だった。


 と言うよりは、犯人の目撃情報も一切なく犯人像を推定する材料さえ足りてない状態で、ギルドですら現状把握できていない感じだった。



 大まかな話を終え、その後はミイラ化した遺体の説明が行われた。


 壇上に10体の遺体が運ばれ専門家による解説が行われていたが、本当にどれも骨と皮だけで見るも無残な姿であった。


 遺体は全てギルド調査施設内にある遺体保管所に運ばれ調査解剖されているが、今のところ有力な手掛かりは何も発見されていないとの事だった。


 専門家の言葉を聞いてるとミイラ化した遺体からは何も期待できそうにないなと感じた。



 また、今回の件に関連しているか不明だがと前置きされ以下の情報も示された。


・一週間前に討伐依頼で‘ザッハ・トールテの洞窟'へ向かったPT(4人組)が帰還していない事


・【イーストレーナ大陸】南部でドラゴンが現れたという噂がある事


 直接関与していないとしても解決すべき案件である事から今回あわせて調査する事に決まった。



 そして今回ギルドから今後の方針について提示された。


 事件についてはこの後すぐに一般公開し深夜の外出を控える様促すと共に、冒険者は調査・解決に尽力する事となった。


・ドルチェ王国内の見回り強化


・王国内での目撃情報収集


・王国近況での調査、情報収集


・‘ザッハ・トールテの洞窟'調査


・【イーストレーナ大陸】南部への派遣調査



 冒険者は大きく5つの班にわけられた。


 僕とマロンさんのPTはドルチェ王国内の見回り班となり、今晩から早速巡回する事になった。







 同日夜。

 

 僕はアモンドと一緒に商業街を巡回していた。


 今回ギルドから巡回は2人一組か3人一組で行うようお達しがあったからだ。


 まぁ、流石に1人では危険だろうし、かと言って大勢でゾロゾロ歩いても相手が警戒して出て来ない可能性がある。


 妥当な判断なのかなぁと感じる。



 仕事を行うにあたってシロップにはタルト邸で大人しくしているように言った。


 シロップはランクFなのでそもそも対象外ではあるが、僕の身を案じ付いていくと言いかねない。

 

 現にすぐには納得してもらえなかったしね。


 それでタルトさんもサクラとノワさんを参加させない事にして、何かあれば2人を守るよう指示した。


 まぁ、実力的には2人に守られる形になるんだけどね。


 それでPTを組んでるが結局参加1名の僕は、同じくソロで見回り班のアモンドと組む事となったのだった。


 個人的には知り合いと組めたので良かったってのはあるけどね。



 見回り班の仕事は18時~翌6時までで、6時~18時の間は情報収集班が巡回も兼ねて目撃情報を集める事となっていた。

 

 しばらくは昼夜逆転の生活になるのか。


 まぁ個人的には問題ないんだけど、四六時中冒険者が国内を巡回しているわけだから、長引けば長引く程住民の不安も募ってくる。


 早期解決に努めねばと改めて思った。



 既に巡回を始めて数時間が過ぎていた。


 僕とアモンドは主に人通りが少ない路地裏等を巡回していたのだが、特にコレと言って変わった事もなく平和な夜そのものだった。


 ちなみに見回り班の連携についてだが、もし重要な連絡事項が発生した場合まずギルドへ連絡し、ギルドから各個人へメールで状況報告が届く手はずとなっていた。


 だが、現時点ではそういった報告は何ひとつなかった。


「それにしても、何にもないよなぁ~」


 アモンドがちょっと退屈そうに言う。


「まぁね。相手も警戒して今日は何も起きないかもしれないね」


 僕の【危険感知】スキルにも何も反応しないしな。


 結局この日、僕とアモンドは朝6時まで巡回したが犯人らしき人物の発見はおろか、有力な情報すら見つける事ができなかった。







 翌日。


 17時から見回り班の事前ミーティングが開始された。


 そこではまずギルド長から前日の報告があった。

 

 ギルド指揮のもと冒険者総動員で対応した初日だったから、流石に被害者は出なかっただろうと思っていたが、そんなのは甘い考えでしかなかった。

 


 報告によると昨夜は【ココメロ公園(パーク)】で25人ものミイラ化遺体が発見されたのだった。


 この被害者数は過去最多で、驚くべき事に内12人が見回り班の冒険者だったのだ。


 その冒険者の中にはランクCの者もいた事から、犯人も相当な実力の持ち主である事が伺えた。


 そして最悪な事は現時点までで犯人に繋がる情報が何一つ上がっていない事だった。


 いくら暗い時間帯での犯行だからと言っても、25人も殺めておいて目撃情報の一つもないなんて…。

 

 何かしらのスキルを使用したのだろうか…?


 結局この日のミーティングでは有益な情報は何一つ得られず、逆に重い空気のまま解散となった。




 現在僕とアモンドは貴族街を巡回していた。


 貴族は個人的に冒険者を雇っている場合も多く、見回り班以外の冒険者も多く見かけた。


 ちなみに貴族に雇われてる冒険者は"やむを得ない事由"に該当する為、ギルドの緊急招集対象外となっている。



「貴族様達はこんな状況でもお構いなしなんだなぁ」


 アモンドがそんな事を呟いた。


 確かに既に21時過ぎだがここは人通りが多かった。


 今回の事件が一般公開されてからというもの商業街や食堂街、居住区など夜の外出が激減していた。


 そう考えると貴族にとってはまだそんなに懸念事項になっていないのだろう。


 現に貴族街ではまだミイラ化遺体は出ていないからね。


「そうだね。もう少し緊張感があってもいいかなと思うね」



 そんな事を話ながら巡回をしていると、突然【危険感知】に敵反応が現れた。


 それも半径10mの範囲内で。


 どうしてこんなに接近してたのに【危険感知】に反応しなかったのか。


 不思議に思いつつも急ぎ現場へ向かう為にアモンドへ敵反応を伝えた。


「反応はこの建物のすぐ裏だ」


 急いで回り込み駆け付けると、そこは薄暗い路地裏でこれまで襲撃があった場所と同じ様な現場だった。


 そして目の前には倒れている人影に剣を突き立ててる人物がいた。


 その周囲にも蹲っている人影が複数あり、ミイラ化した遺体まで確認できた。

 


犯人(ヤツ)だ」


「あの片手剣、なんかヤバそうだね」


「あぁ。全力で行こう」



 そう言ってアモンドは『属性闘気アトリビューション・オーラ』を纏い犯人に向かって突進する。


 犯人は人陰から剣を抜き、こちらに気づきながらも次のターゲット(足が竦んでいる男性と女性)に向けて既に剣を振り上げていた。

 

 僕は走りながら魔法を唱える。


風の矢(ウインドアロー)×2』


 鋭い2本の風の矢が振り下ろされている刃とグリップを握ってる相手の手の甲に当たる。


 これで軌道が逸れてくれれば…。


 しかし、犯人はグリップから手を放すでもなく、また軌道も少しは逸れたがそれでもターゲットを捉えたまま剣を振り切ったのだった。


 女性の悲鳴が聞こえると共に、鮮血が舞った。


 クソッ!止められなかった。


 そして犯人がすぐさまもう一太刀浴びせようとした時にアモンドの爪が片手剣を防いだ。


 しかし犯人はグイグイ力で押し込んできたので、アモンドは素早く相手の腹を蹴り犯人を吹き飛ばした。


 『属性闘気アトリビューション・オーラ』で強化された蹴りはたいそう効いただろうと目を向けるも、犯人はアモンドの蹴りを片手剣で防ぎ、バックステップで蹴りを受け止めた様だった。


 そして、そのまま闇に紛れて退散しようとした。


「逃がすか。ハルト、この奥様達は任せた。俺は犯人(ヤツ)を追う」


 アモンドの顔つきが真剣そのものになり、犯人が走り去った方へ駆け出した。


「了解。僕も直ぐに後を追うから」


 そう言って僕は急ぎ2人の元へ駆け寄った。


「しゅ、主人を助けて下さい」


 蹲っている彼女にもたれるように男性が倒れていた。その姿を見るに男性は彼女を庇うように覆いかぶさっていた。


 きっと体を張って彼女の事を守ろうとしたのだろう。


 だが、先ほどの犯人の一太刀は無情にも彼の背中も捉えたようだ。


 パックリと割れている背中。男性の息は絶え絶えで今にも命の灯が消えそうだった。


「わかりました。そのまま動かさないで下さいね」


 そう言って僕は複数のギガポーションとタオルを【アイテムボックス】から取り出した。


 1本を強制的に飲ませ、もう1本は傷口にぶっかける。


 更にもう2本はタオルにたっぷりと染み込ませて背中の傷口に当てた。


 すると絶え絶えだった呼吸も落ち着き、出血も徐々に止まり、男性はそのまま眠りについた。



「ありがとうございます。ありがとうございます」


 涙を流しながら何度もお礼を言う女性。


 よく見ると彼女も肩から出血していた。


 自分も辛い状態のはずなのにご主人の事を優先する姿に夫婦愛を感じた。


「では次は奥様の番です。肩を見せて下さい」


「え!?でもギガポーションなんて高価な物を何本も使ってもらうのは…」


 そんな事を言い始めたので、僕は聞く耳持たずといった感じでギガポーションを1本渡し飲み干すように指示して、彼と同じように傷口へタオルを当てた。


 すると彼女の出血もみるみるうちに止まった。


 痛みは残っており、すぐに動かすのは難しそうだったが、それでも指先まで力を入れる事は出来ていたので、ひとまずは無事だと安堵した。


 回復魔法が使えない僕に出来る事はここまでだ。

 

 それにしてもギガポーション凄すぎだな。


 この効果を見ると1本10Gというのも安く感じてしまう。


 そして彼女の前に4本のギガポーションを置いて、夫婦2人を囲む様に風の盾(ウインドシールド)を唱えギルドへ救助のメールをした。



 メールをしながら先ほど犯人が剣を突き立てていた人影を確認したところ、それはミイラ化した遺体だった。


 でもどうして…?


 不気味な感じがし、急いでアモンドの後を追ったほうがいいと思った。



「10分間はそのシールドが完全に守りますので、ここから動かず安静にしていて下さい。

 助けは呼んでいますのでご安心を。 あと数分でギルド職員が来ますよ。

 念の為にギガポーションも置いておきますので、遠慮せずに飲んでくださいね」


「何から何までありがとうございます」


「では、僕はこのまま犯人を追います。失礼します」



 "お名前を~"という声が後ろから聞こえてきたが、僕は振り返らずに急ぎアモンドを追いかた。


 無事でいてくれと願いながら。




 








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