第三十九話 ポーションを作ろう
「おはようございます。ハルト様ぁ」
誰かが僕を揺すっている。
「もう11時過ぎてますよ。ハルト様ぁ」
ガクガク、ガクガク、揺れが一段と激しくなった。
「う~ん、あと5分…」
「駄目ですよ。そろそろ起きてください」
ガバッと布団を取り上げられ、すぐさま肌寒さが襲ってきた。
この状態で寝るのは無理ってものだ。僕は仕方なく起きる事にした。
「ふわぁぁぁぁ、おはよう、シロップ…」
「はい。おはようございます」
ん?何故シロップがいる?ここは何処だ?
状況が理解できていない僕にシロップが説明してくれた。
ここはタルト邸で、昨日泥酔した僕はズコットさんの肩を借りここまでやってきて、そのまま一泊したとの事だった。
「では、ハルト様お着替えをなさって下さい。私は部屋の外で待ってます」
そう言ってお辞儀をしドアの外へ出ていくシロップ。
おぉ、なんか変わった。以前だったら自分から部屋の外で待ってますなんて言わなかったもんな。
たった数日で立派に成長したなぁ~と嬉しく感じた。
そして着がえも終わりシロップを再度部屋に入れた。
「ではこちらは洗濯しておきますね。他に洗濯物はございませんか?」
あまりにもきちんとしたメイドになっているので驚きつつも、昨日カフェで着た服も一緒に洗濯してもらおうと【アイテムボックス】から洋服を取り出した。
取り出した洋服を見てシロップも気づいたようだ。
「シロップが選んでくれた服、とっても着やすかったよ」
「本当ですか。良かった…良かったです」
尻尾を揺らしながら嬉しそうにそう洋服を受け取るシロップ。
「出来上がった洗濯物は後日お届けに参りますね」
うん、この成長ぶり。やっぱりノワさんに預けて良かったなぁと心から思った。
しかし、ベッドメイクをシロップに任せ洗顔をしに一旦部屋か離れ再度戻ってくると、そこには目を疑う様な光景が僕を待っていた。
つい先ほど手渡した洋服の匂いをシロップが嗅いでいるではないか!
クンカクンカ、クンカクンカ…。
えぇぇぇぇぇ!何やってるのこの娘!
「ちょっ、ちょっと、シロップ。何しているの?」
恐る恐る尋ねる。
「…メスの匂いがします」
それはとても低いトーンで背筋が寒くなった。
「あっ、あの…シロップさんや」
「ハルト様のこの洋服からメスの匂いがします」
最早シロップの尻尾は揺れてなく、逆にピーンと逆立っている。
「どういう事ですかぁ~、ハルト様ぁ~。何でメスの匂いがするのでしょうかぁ~」
先ほどまでの嬉しそうな表情はどこに行ったのか。
シロップは目に光を宿さずに、ゆらゆらと左右に身体を揺らしながら僕に詰め寄ってくる。
「え、えぇっと…」
突然の変貌に言葉が詰まる。
そんな僕にお構いなしと言った感じで彼女は言葉を続ける。
「タルト様の匂いでもないし、ノワ様、サクラお嬢様のものでもありませんよねぇ~。
洋服にこんなに匂いが付くのはかなり距離が近くかつ一緒にいた時間が長かったという事ですよね~。お相手はどなたですかぁ~?」
何か推理もしてるしぃ~。
「私は鼻が利くんですよぉ~。もしハルト様によからぬ虫が付いたとなると、私が見つけ出し駆除しなければなりませんね~」
言いながらメイド服のどこからかナイフを取り出し、見えない何かに向かって突き刺しては引き抜く動作を繰り返し始めた。
うぉぉぉぉぉぉぉ!完全にヤバい。
何か変な属性が付いてるじゃないか!
ナイフの先に人的なものが見えるような…。
ヤバい、ヤバいぞぉ~。
「あっ、あの、落ち着いてシロップ」
素早くナイフを奪いとり、僕は彼女の両肩に手を置いて落ち着かせる。
「じゃあ、きちんと説明して下さい」
落ち着きを取り戻してもいっこうに引く気はないみたいだ。
ここは正直に話そう。
「えっと、それはたぶん昨日一緒にいたマロンさんで…以前話した僕の好きな人だよ」
≪ガ―――ン≫と聞こえたような気がした。
そしてすぐさまシロップがグイッと詰め寄ってくる。
「もっ、もうハルト様とその方は洋服に匂いを付け合う仲なんですか!」
えっ!?何その洋服に匂いを付け合う仲って。
そんな仲は聞いた事ないんですけど。
ってか、匂いが付いたのはきっと抱きしめたからで…ってこれは言わないほうがいいよな。
うん、絶対に言っちゃダメだ。
「いや、昨日は半日一緒にいたからね。たまたま匂いが付いたんだよ」
苦しい言い訳をしつつ、この話題を早く終わらねばと思った。
「そうそう、昨日はシロップの事も話したんだよ。今度きちんと紹介するから、仲良くしてね」
むむむ…と唸りつつもシロップは「楽しみにしてます」とだけ言った。
楽しみと言う表現が何だかとても怖く聞こえる。
2人を会せる時は心労で激ヤセしそうだな。
ノワさんの教育でシロップのこの病気のような属性も治らないものかなぁと思ってしまうよ。本当にね。
それから僕はシロップが持ってきてくれた食事をとり、部屋で予習を始めた。
この日の午後は‘ハンドメイド教室’が入っているのだった。
◇
ポーション。それはこの世界での回復アイテム。
・ポーション…体力(HP)を少回復。青色の水薬。価格:銅貨50枚。
※必要な素材:3種の薬草・聖水・魔法石(小)
・ハイポーション…体力(HP)を中回復、状態異常を多少和らげる。緑の水薬。価格:銀貨3枚。
※必要な素材:10種の薬草・聖水・魔法石(中)
・メガポーション…体力(HP)を大回復、状態異常を和らげる。黄色の水薬。価格:銀貨50枚。
※必要な素材:50種の薬草・聖水・魔法石(大)
・ギガポーション…体力(HP)を全回復、状態異常を完全回復。桃色の水薬。価格:金貨10枚。
※必要な素材:150種の薬草・聖水・魔法石(特大)
この世界には4種類のポーションがあり、ランクが上のポーションになればなるほど効果が上がり価格も高くなっている。
魔法石で出来た小瓶に入っている為、賞味期限はなく一度作れば永久に保管が可能である。
ただし、1回使いきりとなっている為、小瓶の蓋を開けると保管は不可となる。
主にポーションを作成できるのは薬剤師・薬師の職業に就いた者である。
ちなみに薬剤師は薬師の上級職で王国に仕える者のみが就業できるものとなっている。
そして薬剤師がギガポーションまで、薬師はハイポーションまで作成できるスキルを覚える事が出来て、素材を揃えスキルを使用すれば希望のポーションが100%作成できる。
ただ、その他にもポーションを作成できる方法がある。それが【錬金術】・【合成】等のスキルである。
ただし、こちらの場合は作成できる確率が5%~40%(ポーションのランクによる)と低い事に難点である。
今日の‘ハンドメイド教室’はポーション作りを行う事になっていた。
僕は‘ギルド図鑑'でポーションについて簡単に学んでいた。予習をしておくとかなり理解度が上がるんだよね。
それにしても、いよいよポーション作りかぁ。
回復魔法が使えない僕としてはポーションは必須アイテムだった。
いくらあっても足りないくらいだ。
それが自分で作れるようになったらどんなに冒険の手助けになる事か。
考えるだけでもワクワクが止まらなかった。だから予習もいつも以上に熱が入った。
◇
‘ハンドメイド教室’へ行くとポーション・ハイポーションの素材をタルトさんが準備してくれていた。
素材が揃っているのは凄く有り難い。だって後はスキルを使い作成するだけだから。
「じゃあ、早速作ってみようか。一般的にポーションだったら40%の確率で成功するから、2~3回やれば出来るでしょう」
「はい。まずポーションからやってみます」
僕は素材を前に【創造】を発動させる。
ぼわんと白い煙が立ち上がる。その煙が消えると、目の前には黄色の液体が入った綺麗な小瓶が現れた。
どうやら一発で成功したみたいだ。あれ、僕って才能ある?ちょっと得意げな顔になってしまう。
するとタルトさんが驚きながら「ちょっとそれ見せて」と出来立てのポーションを確認しはじめた。
「ねぇ、ハルト。あんた今この材料で作ったんだよね?」
机の上にある3種の薬草・聖水・魔法石(小)を指さしていたので僕はそうですと頷いた。
「これは奇異だね」
え?どういう事?
「今回出来たポーションを良く見てみて。これはメガポーションよ」
!!!
そういえば黄色の液体だった。え?でもどうして…。全く訳が分からなかった。
「ハルト、次はこれで3つ作ってみて」
10種の薬草・聖水・魔法石(中)を3セット受け取った。これはハイポーションの素材だ。
僕はタルトさんに言われるままもう一度【創造】を発動させた。
そして、次に煙の中から現れたのは桃色の液体が入った綺麗な小瓶だった。しかも3回全部で。
ってか、これってギガポーション?
目の前の出来事に驚きを隠せないタルトさんと僕。
「ちょ、ちょっとこれがギガポーションか確かめるわね」
そう言うとタルトさんは自分の腕にナイフで傷をつけて、毒薬を飲み始めた。
「えぇぇぇぇぇ!なっ、何してるんですか!」
タルトさんが気でも狂ったのかと思いアタフタしてしまう。
苦しそうにしながらも、「大丈夫。それ貸して」と言ってタルトさんはギガポーションを一気に飲み干した。
するとどうだ。タルトさんの身体が一瞬眩く光り、腕の傷が治り状態異常も回復しているではないか。
「…ふぅ、治ってるわ。これは本物だね」
タルトさんが確信して言った。ってか、確かめるって危険な方法は止めて下さいー。
「ハルト、これは凄い事だよ。だってポーションの素材でメガポーション、ハイポーションの素材でギガポーションが出来てるんだよ」
興奮した様子で話が続く。
「普通の素材でランクが2つも上のポーションが出来上がってるんだからね!ハルトの【創造】が凄いのか、勇者の加護の影響か、INTが高い為かわからないけどこれは大変な事だわ」
タルトさんの話を聞く限り物凄い事をやったんだというのは伝わってきた。
「そして4回連続して成功している事もね」
確かメガポーションの成功率は10~20%、ギガポーションに至っては成功率は3~5%だったなぁ。
そう考えると今のところ成功率100%の僕は異質に思える。
「それにもしギガポーションを作りたいなら普通は結構苦労するんだよね。実はこの大陸だけでは150種類もの薬草は揃わなくて、4つの大陸を全て巡って揃える必要があるし。だからそういった面も含め私は驚いてるよ」
なるほど。薬草は種類を揃えるのが大変なんだ。
でも本来150種類必要なところ僕は10種類でいいわけえだから、確かに驚きである。
「これって喜んでいい事ですよね?」
何だか話が凄すぎて、いまだに信じられない自分がいた。
「もちろん!しかもハルトの金欠を一気に解決する事になるわよ」
「これを販売をするんですね」
「そうよ。ただし、普通のお店で販売するわけじゃないわよ」
「え?お店じゃダメなんですか?」
「メガポーションならまだしも、ギガポーションなんて高価なものはなかなか売れないわ」
「あぁ、価格が金貨10枚でしたね」
金貨10枚は日本円にして100万円。1回使いきりのポーションの為に100万円を出せる人って限られてくるよな。
「そう。そんな高価なものをポンと買えるのは貴族や王宮関係者ぐらいだわ。でも、そう言った人達って専属の商人とかいたりして、街中とかで買い物をあまりしないんだよね」
なるほど。それなら店舗を構えてもなかなか売れないってわけか。
「それじゃあ、結局稼げないですよね?」
「ふふふ。それがそうでもないのさ」
そしてタルトさんはとっておきの稼ぎ方法を教えてくれたのだった。
◇
同日深夜。
「うぃ~、今日も素敵な一日でしたぁ~と」
「そうよね~。私も飲みすぎちゃったわぁ~」
足取りのおぼつかない酔っ払いの中年男女がドルチェ城下街の路地裏を歩いていた。
右に左にフラフラ、フラフラと歩いていると女性が何かで躓いた。
「おぃおぃ、おまえ飲み過ぎなんじゃないのかぁ~」
「それはお互いさまでしょ。それより立たせてよぉ~」
男性は女性に手をかしながら「何に躓いたんだぁ~?」と、彼女の足元を生活魔法で照らした。
そしてその瞬間、薄暗い路地裏に男女の悲鳴が鳴り響いた。
それはこの日ドルチェ王国内で発見された5体目のミイラ化した遺体だった。




